アサトっていう男
キコリが振り返った先。そこには、何人かのドワーフたちがいたのだ。
敵意は感じない。しかし、ひどく真剣な表情でキコリを見る姿は、何か観察されているような……と、そこまで考えてキコリは気付く。
そう、ダンとゼンのことを思い出したのだ。あのとき彼等が見ていたのはキコリの装備だった。つまり、もしかすると今回も。
そこまで考え着いたとき、ドワーフの1人が顔を上げてキコリを見る。
「ああ。お前に用というか……その装備を見ていた」
「ちょっと信じられんくらいに良い装備だ」
「ああ。その鎧も斧も、まるで生きているかのように素晴らしい」
「武具に生き死にがあるのは当然だが、これはそんな段階を超えている」
「素晴らしい……何処のドワーフの作品だ?」
やはりキコリの武具目当てで集まってきたようだ。しかしまさかレルヴァが武具になったものだ、などとは言えはしない。
「あー……それは言えない。ちょっと事情があるんだ」
だからそう誤魔化すと、ドワーフたちは何を納得したのか「うんうん」と頷きあう。
「確かにそうだろうな」
「ああ、そうだろうさ。これほどの武具だ」
「きっと鍛冶に全てを捧げた者の作に違いない」
「失われた時代のものかもしれんぞ。あの頃にあって今は無いものも多いと聞く」
そんなことを言い合いながら、ドワーフたちはキコリを囲むようにして鎧と斧をじっと見始める。
もう自分たちの存在が知られているから遠慮も要らないとでもいうかのようだ。
ほう、とかふむ……とか。好奇心の色が物凄く強い。
「ううむ、素材すらも分からん。失われた時代のものという考察もあながち間違っていないかもしれん」
「何かの合金ではないか? 黒鉄とミスリルを混ぜたやつが前に出回っていただろう」
「あんなもん合金とは言わん」
「しかし方向性としては合っているかもしれん」
キコリを囲んで話し合うドワーフたちだが、注目度が凄いし他のドワーフが興味をひかれて集まってきてしまっている。
「あー……すまない。探し人の途中なんだ。悪いけどそのくらいで……」
「なんだそんなもの。何処の誰を探しとるんだ」
「普人のアサトっていう男だ。黒い髪してる。たぶん10代か20代だと思う」
キコリがそう聞いてみれば、ドワーフたちは周囲を見回す。
「黒髪だそうだ。知っとるか?」
「知らん」
「儂も知らん」
「儂も知らんなあ」
「そもそも黒髪は相当珍しいぞ」
周囲に広がっていく「知らん」の大合唱にキコリは頷く。この辺りで商売をしているドワーフが知らないのであれば、アサトは此処に来ていないか記憶に残っていないか。そうと分かっていなければ記憶に残らないほど静かにしていた可能性もあるにはあるが……。
「いや待て。儂は見た気もするぞ」
「本当か」
「どんな奴だ」
「黒髪の……たぶん冒険者だな、アレは。妙なデザインの剣を持っとった」
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