ビックリするくらいに顔を見てないな

 それを聞いてキコリは「恐らくアサトだ」と思う。

 妙なデザインの剣……というのは知らないが、武器の持ち替えなど珍しくはない。

 何より黒髪はこの世界においてはかなり珍しい。居ないわけではないが、キコリもあまり見たことは無い。となれば……あたってみる価値は充分にある。


「その黒髪の男って、まだ王都に居るのか?」


 キコリが聞いてみると、そのドワーフは「んー」と悩むような声をあげる。


「どうだろうなあ。儂もそこまで注視しとったわけではないし」

「その剣とやら見とったんじゃろ」

「フフ……あれは中々に面白そうな剣だった……」


 満足そうに頷くドワーフだが「そう、確か7日ほど前だったなアレは」と付け加える。


「7日前か……」

「微妙なところね」


 7日前。何かしらの用事を済ませて去っている可能性も充分にある程度の時間だ。たとえば武具を買いに来たのであればもう去っている可能性もあるが、オーダーメイドの類であればいるかもしれないし、もっと違う用事で来ている可能性もある。


「そうか、ありがとう」

「気にするな。良いものを見せてもらっているしな」

「ああ、見れば見るほど意欲が刺激される」

「うむ、よいものだった」


 言いながらドワーフたちは解散していくが、どうやら好奇心がある程度満たされたのだろう。

 売ってくれとか言われたら困ったが、そういうものでもないようだ。

 まあ、鍛冶に生きるドワーフとしての好奇心が刺激されただけなのだろう。キコリとしては非常に助かる話だ。

 そのまま周囲の店などに聞いて回ってみれば、誰もがキコリの鎧や斧をじっと見ながら話をするので視線がほとんど合わない。なんとも分かりやすく、武具に集中しているだけに会話がほぼ上の空で素直に答えて貰っているような感じもあった。

 そうした情報を総合してみると……こんな感じだ。

 黒髪の男は確かに見たような気がする。

 剣を持っていたから剣士なのではないだろうか?

 なんだか危なそうな雰囲気を持っていた気もする。


「ビックリするくらいに顔を見てないな」

「そんなに興味がないものかしらね……」


 剣を持っているのは覚えていても、それに付属する情報として「黒髪だったかも」となるので、顔の情報となるとドワーフたちは一切覚えていないのだ。

 しかしまあ、そうなると防衛都市にいたドワーフとはやはり随分性格が異なるともいえるが、この調子なら酒場でも大丈夫だろう。

 そう考え酒場の扉を開けようとすると……背後から「おや」と馴れ馴れしい声がかけられた。

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