もしそんな者が居たら
ギザラム防衛伯は自信満々だが、キコリとしては疑問符を浮かべてしまう。
確かにギザラム防衛伯も……たぶんジオフェルドも良い人だが、蜥蜴人全体に話を広げるのは何故なのか。
その辺りが分からずにいるのを察したのか、ジオフェルドが「信仰する神の問題です」と教えてくれる。
「確か獣人はほぼ月神を信仰していて、蜥蜴人は」
「はい、蜥蜴人はほぼ全員が竜神信仰です。そして竜神を信仰する者はこう考えます……世俗の争いなどくだらない、と」
そう、竜神ファルケロスを信仰する者達は、ドラゴンをも神聖なものだと考えている。
多くの人間はドラゴンを人間への試練だと考える。
だが竜神信者はそこから更に踏み込み、ドラゴンを「目指すべき姿」と捉えている。
偉大なる先駆者であり、目標でもあるのだ。
それ故に、一般的な人間社会での様々なものに然程の執着を抱かない。
しかし……そうであるが故に清廉であり、獣王国では様々な要職に蜥蜴人がついている。
「当然、様々なものに起因する争いも儂等はくだらんと考えている。故に蜥蜴人の中には、君に対してどうこう言うくだらん輩は、高い確率で存在しない」
「まあ、一部には居ます。ですが他の連中よりは大分マシです」
「な、なるほど……よく分かりました」
つまるところ「ドラゴンにもなってねーのに、くだらん争いに執着しやがって」みたいな感じなのだろう。
(俺がドラゴンだってバレたらどうなるんだ……?)
普人の国であるセノン王国とは別の問題が起こりそうだ。
そう察したキコリは絶対に黙っていようと心に決める。
「じゃあさー」
「ん? 何かね、オルフェ」
「ドラゴンに『なった奴』が出てきたら、竜神信仰してる連中ってどうすんの?」
面白そうに聞くオルフェにギザラム防衛伯もジオフェルドも「ほう」と声をあげる。
「確かにそれはずっと議論されてきたことだ」
「ドラゴンに到る者……もしそんな者が居たら、それは……」
「祀り上げるだろうな」
「ええ。少なくとも敬虔な竜神信者は熱狂することでしょう。私も……フフ、気分が高揚してきましたよ」
シュウウー……と吐息を漏らすジオフェルドにギザラム防衛伯も笑う。
「ハハハハハ! 気持ちは分かるぞ! 儂も立場さえなければ、その者の行く末を一番見届けられる位置を奪い合うだろうよ!」
「防衛伯閣下は大変ですな。そこにいくと私はただの神官ですから」
「ぬかせ、次の神殿長候補が」
笑いあう2人をそのままにオルフェは楽しそうに「だってさ」とキコリに視線を送ってきて……キコリは改めて絶対にバレないようにすることを誓っていた。
バレたらどんな面倒ごとになるか、その現実が明確に見えてきたからだ。
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