その時はそうするさ
なんだか疲れる夕食が終わった後、割り当てられた部屋で……キコリはぐったりとしていた。
「なーに疲れてんのよ。そりゃめんどくさい連中ばっかりだったけど」
「……俺はさ」
「うん」
「あくまで一般人なんだよ」
「ドラゴンじゃん」
「メンタルの話」
「ふーん?」
オルフェは分かっていない風だが、キコリとしては重大な問題だ。
たとえ防衛伯に目をかけて貰えようとドラゴンであろうと、そのメンタルは一般人のままなのだ。
普人の国ではドラゴンとバレたら命の危機かもしれない。
獣人の国ではドラゴンとバレたら祀り上げられかねない。
どちらもキコリとしてはやめてほしいのだが……。
「いっそ妖精の村で暮らす?」
「……ちょっといいかもって思った」
布団に突っ伏すキコリにオルフェが含み笑いを漏らすが……実際問題、人間より妖精の方が気が良い連中が揃っていた気がしないでもない。
「じゃあ、それでいいんじゃない?」
「何がだ?」
「いざとなったら、妖精の村で暮らせばいいじゃん? なんだったらまた引っ越ししましょ」
元気づけてくれているのか、とキコリは気付く。
考えてみれば出会いこそ悪かったが、オルフェは常にキコリの味方だった。
もっと、オルフェに頼ってもいいのかもしれない。キコリはそんなことを思う。
「そうだな。その時はそうするさ」
「そうしなさい」
心が軽くなっていくのを感じて、キコリはそのまま疲れと良いベッドのせいで寝てしまう。
今日のことを思えば、当然とも言えるだろう。
一般人メンタルのままのキコリには精神的に負荷がかかり過ぎる出来事だった。
「……」
そんなキコリを見下ろしながら、オルフェは難しい表情になる。
ドラゴンが目標。
あの蜥蜴人たちはそんな事を言っていた。
それ自体は理解できるし、非常に真っ当だ。
オルフェへの態度を含めても、人間としては合格点を上回る程度には「素晴らしい」のだろう。
しかし、とオルフェは思う。
人間からドラゴンになった実例が此処に居て。その有り様はオルフェが見る限り、凄まじく歪だ。
考えてみれば……ヴォルカニオンは如何にも人間の想像するドラゴンの姿をしていたが……昔見たクラゲドラゴンといい、ドラゴンはどれもこれもオンリーワンが過ぎる。
種族でありながら、まともな系譜があるようには思えなかった。
なら、とオルフェは思う。
(他のドラゴンもキコリと同じ……なのかしらね?)
別の何かから、竜神とかいう神に見出されてドラゴンになったのだとしたら。
……だとすれば少なくとも竜神は人間の味方ではないのだろう。
モンスターの味方というわけでもないのは確定しているが。
「信仰、ね。ほんとに神とやらは、そんなもんを有難がってるのかしらね?」
答えの出ない疑問をオルフェは「バカらしい」と笑って切り捨てると、そのままフワフワと浮きながら寝始めるのだった。
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