家に帰ろう
……そして、キコリが神官イドレッドから解放された頃には、すっかり夜だった。
随分と熱中するタチの人であったらしく、色々と教え込まれてしまった。
「まさか、創世記から語られるとは思わなかった……」
おかげで色々分かった気はするのだが……所詮「分かった気になってる」というだけもする。
しかし、なんとなく概要だけは理解できたような気もした。
そして……知りたかったことも、だ。
「……悪魔、か」
どうやらゴーストと同様の、魔力で構成された生命体であるらしい。
元々ゴースト系のモンスターは生物に入り込むことで知られているが、悪魔はその能力が特に強く、入り込んだ生物に成り代わることもあるらしい。
その現象を悪魔憑きと呼んだことから、人が変わったようになることを「悪魔憑き」と呼ぶ風習が広がってしまった……ということのようだ。
「分かってみれば、なんてことはないな」
なるほど、あの村の神官が「悪魔憑きではない」と断言するはずだ。
神官だから、そうではないと正確な知識で分かっていたというだけの話なのだ。
ただそれだけの、単純な事実の指摘でしかない。
それを言ってくれればよかったのに……と思わないでもないが、あの村で説明したとして、何人がそれを理解できただろうか?
まあ、今となってはどうでもいいことだ。
あの村に戻ることは、2度とないのだから。
「……」
この世界には転生者がいる。
キコリもその1人で、今までその知識と記憶に悩まされてきた。
世界に感じるズレと、自分を合わせられないでいた。
幸いにも、記憶自体は大分薄れてきた。
いや……塗り潰されてきた。
ズレはいつの間にか消えていて、今は生きている幸せを全力で感じている。
それはきっと、アリアのおかげなのだろう。
そして……何よりも。
「深く、考えすぎたのかもしれないな」
記憶を持って生まれ変わったことに、意味なんてない。
名前すら忘却した「前の人生」などに、今更執着もない。
「前の世界」だって同様だ。今は、こちらの世界の方が良いと胸を張って言える。
なら、きっと……それでいいのだ。それだけの話だったのだろう。
「……家に帰ろう」
アリアの家。
今日は誰もいないが、合鍵は預かっている。
そして……もう、そこに「帰る」ことに何の違和感も感じなくなっている。
だからこそ、アリアが今夜は家には居ないという事実に少しの寂しさをキコリは感じて。
けれど、それはまだ「家族」に感じるものに近いような気もしていた。
それは今の生で暖かい家族といったようなものに飢えていたからなのかどうか。
分からないが……今のところそれ以上は考えられないな、と。
キコリはそんな事を言いながらアリアの家へと戻っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます