一応聞くけど

 翌日。アリアのまだ帰ってきていない家を出て、キコリは英雄門へと向かう。

 昨日の騒動の影響か、今日は門前で商売をしている商人は……いつも通りだった。

 いや、いつもよりも熱気があるだろうか?


「さあさあ、今アツいのはなんといっても斧! とっさの時の破壊力という信頼性! 1つ持っておいて損はないよ!」

「どうだい、この斧! 分厚くて立派だろう! 今が買い時だよ!」


 何やら斧をプッシュしているのが見えるが……まさか、という感じではある。

 しかしまあ……どう考えても昨日のアリアとキコリのせいであろうとは、キコリ自身分かる。

 ウォークライまで使って大暴れしたのだ。衛兵の口から伝わっていてもおかしくないし、昨日の掃討戦に参加した冒険者も2人の戦果を理解していただろう。

 ……まあ、それが売り上げに繋がるのかは、ちょっと分からないが……真面目に斧を見ている冒険者がいるのを見ると、多少は売れているのかもしれない。


「お、キコリー!」


 そうしていると、門の近くにいたクーンがキコリを見つけて走り寄ってくる。


「昨日は大暴れだったらしいじゃない! いやあ、いいなあ。僕も参加したかったなあ!」

「そんないいもんじゃないよ」

「そう? まあ、そうかもね」

「そうだよ。それに……」


 キコリは周囲を見回し、視線が幾つか向けられているのを感じ取る。


「正直、俺『が』凄いみたいに思われても……困る」

「思わせときなよ。冒険者だってイメージ商売だよ?」


 クーンのそんな台詞に理解できる部分もあるだけにキコリは「そうだな」と答えるしかない。

 弱い冒険者と思われるよりは、強いと思われたほうが仕事の口もあるのだろうから。


「まあ、それはさておいて……森の中はどうなんだろうな。普通のモンスター、戻ってきたのか?」

「いや、全然みたいだよ。調査隊の生存も絶望的だし……何より、相当悪い事態になってる可能性がある」

「想像は出来るけど……どんな?」

「ホブゴブリンを統率できる個体の存在」

「ビッグゴブリンがそうってわけじゃないんだよな」

「そうだったら話は楽なんだけどね」


 けれど、恐らくそうじゃない、とクーンは語る。


「だからほら、今日は結構荷物多めな人多いだろ?」

「ん……ああ」


 確かに、大きな荷物袋を抱えている人がパーティに付き添っていたり、大きな荷物袋を背負っている冒険者もいる。


「奥に潜って、統率者を見つけ出す気なんだよ。倒せば報酬もデカいし冒険者としてのランクも間違いなく上がる。実力に自信があるなら、良い選択肢だ」

「一応聞くけど」

「僕は死にたくない」

「安心した。俺もだよ」

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