理由にはなってない

 キコリとクーンは、森を進んでいく。

 やはり周囲にモンスターは居ないが……いつもとはかなり違う事もあった。


「ジグザグに進んできたつもりだったけど、結構人が居るな」

「そりゃそうだよ。ビッグゴブリンの件もちょっと耳のいい人なら知ってる」


 そう、周囲にちらほらと他の冒険者の姿がある。

 何かを探している様子だが……恐らくは「統率者」に繋がる何かを探っているのだろう。


「昨日のリザードライダーだって、英雄門の正面……通称『冒険者の道』を外れてやってきた。連中、そこを外れれば冒険者が少ないって知ってたんだよ」

「ふーん」

「でも英雄門の警備も強化された。次来たら即殲滅さ」


 昨日のその辺りの事情についてはキコリは分からないが、アリアと一緒に居た時に確かに「冒険者の道」を外れた場所から襲ってきたのは確かだ。


「モンスターの分布の話と同じか。でも、俺分かんない事があるんだよな」

「何が?」

「異常進化体のゴブリンがいる。明らかに統率されていると思わしきホブゴブリンがいる。で、たぶん統率者がいる」

「うん」

「……どれも、英雄門の近くからモンスターが消える理由にはなってないよな?」


 そう、これはどれもゴブリンの話だ。

 たとえばゴブリンを統率する何かがいるとして……角兎には何の関係もないはずだ。

 しかし、角兎も消えている。これは一体どういう理屈によるものなのか?


「まだおかしいことはある。消えたゴブリンは何処に行った? なんでホブゴブリンの……リザードライダーが攻めてきたんだ? 真っ先に尖兵にされるはずの下っ端ゴブリンは何処で何をしてるんだ?」

「……本当だ。確かにおかしい。そうだよ、リザードライダーが衝撃的過ぎて頭から飛んでた。ゴブリンの歩兵が随伴してなきゃ、いや……それでもだ。無謀が過ぎる。そんなこと、モンスターだって知ってるはずだろ? それがどうして」


 モンスターだって学習する。だからこそ、今の分布になっている。

 なのに、何故。

 ブツブツと呟くクーンをそのままに、キコリも考える。

 何故、そんな襲撃が行われた?

 モンスターの……「統率者」の狙いは、一体何処にある?

 考えて。キコリは、ハッとする。


「クーン」

「うん?」

「……英雄門の、英雄門の周辺の壁の警備って、どうなってるんだ?」

「どうって。あれも砦の一部だよ? 壁砦っていって、ずーっと長く……まさか」


 そう、その可能性があるのではないかとキコリは思う。

 出来ないと分かっていて「人間側が警戒せざるをえない」リザードライダーやマギライダーを英雄門に突撃させたのならば……その、狙いは。


「門じゃない! 統率者が狙ってるのは……その壁砦の突破なんじゃないか⁉」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る