必死で戦っても

 そうだとすると、かなり拙いことになっている可能性がある。

 勿論、これは想像に過ぎないが……。


「いや……でも待って。壁砦はかなり頑丈に出来てる。それこそオークが全力でぶつかっても壊れないくらいには」

「魔法相手でもか?」

「……それは……どうだろう。僕も詳しいわけじゃないから」


 自信なさげなクーンだが、まあその通りではあるのだろうとキコリも思う。

 今まで破られなかったのだ。そう簡単に破れるようなものだとは思えない。

 思えないが……絶対はない。


「一応衛兵に伝えてみよう。聞いてくれるかは分からないけどな」

「そうだね。もう気付いて何か対策してるかもしれない」


 頷きあい、キコリとクーンは森の外へ向かって歩き出す。

 そして……「その音」に気付き、木の陰に身を隠す。

 ザッ、ザッ、ザッと。

「冒険者の道」を、ゴブリンたちが通っていく。

 こん棒や斧、剣……様々な武器で武装したゴブリンたちと、その後に続くホブゴブリンたち。

 途切れないその列は、1つの軍隊のようにすら見える。


「……」


 キコリもクーンも、全身から汗が流れるのを止められない。

 必死で息を押し殺して、進んでいくゴブリンの軍勢が通り過ぎるのを待つ。


(なんでだ……!? あれは冒険者の道……一番人通りの多いルート! それが何故……)


 考えて、キコリは気付いてしまう。

 そうだ、そうだった。

 ビッグゴブリンの件。昨日の襲撃の件。

 冒険者の道から外れた場所に何かがあることを期待して、あえて「冒険者の道」から外れた冒険者が多い。

 その中には統率者を倒せるような実力者も多く含まれている。

 ならば、ならば。

 冒険者の道は今、ゴブリンたちにとって一番安全なルートになっている。

 多くの冒険者が踏み固めた、その安定したルートを堂々と逆侵攻できる。


(なら、昨日の襲撃も……壁砦を襲撃されるかもと思わせる思考誘導……!?)


 冒険者の不在と、衛兵という防衛線力の分散配置。

 たとえばもし、実際に壁砦の何処かで襲撃も行われていたら?

 そちらに戦力が更に割かれていたら?

 惨劇を想像して、キコリは途切れないゴブリンの軍勢に視線を向ける。

 此処で、ゴブリンの軍勢に突入したら……勝ち目はどのくらいある?


(ダメだ。勝てない。必死で戦っても……なぶり殺しだ)


 ズシン、と。地面を揺らす足音が響く。

 ビッグゴブリンよりも更に大きな姿が、通り過ぎていく。

 鎧を身に着け、大きな盾と剣を装備したその姿。

 それこそが、ゴブリンの統率者なのだろうか?


「ゴブリンジェネラル……」


 そんなクーンの小さな声が……キコリの中で、響いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る