いいじゃん、やってみれば
「オルフェ」
「なによ」
「嘘をつきたくないから、正直に言おうと思う」
「回りくどい」
「俺は調査依頼で来てる。どう報告すればいい?」
「知らねーわよ」
「正直、妖精が人間と敵対するのを見たくない。でも、来たら戦うだろ?」
「当たり前じゃない」
「どの道、此処に今後人間が来るのは避けられない。だから、何とかしたいんだ」
正直に言って、ここまで関わった妖精が死んだなどという話をキコリは聞きたくない。
だからこそ、どうにか出来ないかと考えたのだが……。
「無駄なこと考えてるわねー」
「そうかな……」
「そうよ。どういう経緯で此処に居るか、もう忘れたの? 馬鹿なの? 頭の中空っぽなの?」
入ってますかー、と頭をコンコンと叩いてくるオルフェに、キコリはぐうの音も出ない。
確かにキコリは殺されかけて此処にいるのだけれども。
「そもそも昨日今日殺し合いを始めたわけじゃないのよ? 仮に人間が仲良くしましょうって手を差し伸べてきたとして、怪しすぎて殺しちゃうわよ」
「……そんなにか」
「そんなによ」
だとすると、もうどうしようもない。
……ない、が。それでも何かないだろうか。
「要は人間が此処に来なきゃ争う理由はないんだよな?」
「まあ、わざわざ殺しには行かないわね」
「なら、此処に繋がるルートを通らなきゃいいんだ。それで結果的に不戦になる」
「出来るのー?」
「え、何がだよ」
「だってアンタって、人間社会でどういう位置づけ? 偉い人?」
「……いや、偉くはない」
「実力ザコの地位ザコで、どんな影響力あんの?」
「調査隊だから、そう報告すれば」
「ふーん? まあ、やってみればあ? たぶん無駄だけど」
見えなくても明らかに頭の上でニヤニヤしているオルフェに、キコリは少しムッとする。
「やらなきゃ結果は分からないだろ」
「止めてないじゃない。やってみればあ?」
「……何か思うところがあるなら教えてくれよ」
「やーだよーだ」
キャハハハ、と笑うオルフェだが、一体オルフェは何を予測しているのか。
交渉が上手くいかないということだろうか?
確かに、モンスターと交渉できるなどという話は眉唾だろうが……。
「まさか俺以外じゃ話も出来ないからとか、そういう理由か?」
「それもあるけど。いいじゃん、やってみれば。意外とどうにかなるかもしれないわよー?」
不安ばかりが増していく。
自分が交渉できたのはたまたまで、基本的に人間と話す気はないというのを加えておくべきだろう。
妖精の危険性については自分よりも防衛都市の偉い人の方が詳しいはずだ。
はずだが……妙な不安が、キコリの中に生まれていた。
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