店の前で青春してんじゃねえよ

 キコリが斧を確かめている間、クーンも魔石のついたマジックアイテムの鋼鉄杖を購入していた。


「あ、やっぱりクーンも買ったんだな」

「僕も攻撃力がないとね。さっきの戦いで痛感したよ」

「それを痛感したのが今際の際じゃないのは恵まれてるって思わないと駄目ですよー?」

「うっ」

「うう……」


 アリアに言われて、キコリもクーンも何も反論できない。

 確かに、あの場でビッグゴブリンをどうにか出来なければキコリもクーンも此処で呑気に新しい武器など選んではいられなかった。

 良い武器防具を揃えるのは、義務といって良いのだろう。


「あ、そうだ。鎧もどうにかしないと……」

「マジックアイテムにする?」

「流石にそれは予算が……」

「とりあえずミルグ武具店に行こうか」


 そんな風に話し合うと、キコリとクーンはアリアに声をかける。


「じゃあアリアさん、行ってきます」

「はーい、行ってらっしゃい。もうしばらくしたら私も帰るんで、家で待ってていいですよ」

「分かりました」


 そう言って階段を上がり、ギルドを出て。

 そういえば今日は朝食以外食べてないな……などとキコリは思い始めたところで、クーンからの視線を感じてキコリは振り向く。


「……なんか凄く嫌な視線感じるんだけど……無視していい?」

「キコリって、アリアさんの家の合鍵持ってるんだ」

「置いてくよ?」

「あ、待ってよ! いいじゃんコイバナしたって!」

「クーンのは何か違う気がするんだよなあ!」

「同じだよ同じ!」


 スタスタと歩くキコリをクーンが追いかけて。

 そうして、2人はそのまま徒競走みたいな勢いでミルグ武器店の前に辿り着く。


「ちえー、僕ら相棒だろ? 話してくれたっていいだろうに。相棒と楽しくお話したいなー」

「絶対やだ。ていうかクーンこそどうなんだよ」

「僕? 今のところそういう話はないかなあ。もうちょっと実績上げないとモテそうにはないよ」

「そんなもんかなあ……」

「そんなもんだよ。だからキコリにはちょっとビックリしたなあ。どういう始まりだったの?」

「自然に流れを持って行っても話さないからな」

「ちぇっ」


 まだ諦めてないのか、とキコリはジト目になってしまうが、クーンはどこ吹く風だ。


「……店の前で青春してんじゃねえよ。さっさと入れガキども」

「でもキコリが青春してくれないんですよ」

「そいつは捕獲されてるだけだよ。ほれ、とっとと入れ」

「え、そうなの!?」

「ミルグさん……顧客情報ですよ……」

「はいはい、オマケしてやるから。さっさと入れ」

 ズルズルと引きずられながら、キコリとクーンはミルグ武具店の中へと入っていく。

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