対策が必要です

「見ていない……? しかし、それでは」


 そう、キコリもオルフェも、あんな鎧の剣士を見ていない。

 あんな全身鎧の目立つ剣士、いれば記憶に残っている。

 だが、全く記憶にない。


「何かの魔法の効果、だと思うんですが。心当たりはありますか?」

「いいえ。禁呪や秘匿された魔法であれば分かりませんが……ですが、それは。なんというか……非常に聞き覚えのある話ですな」

「俺もそう思います」


 そう、何処からともなく現れるロックゴーレム。

 キコリがこの町にやってきた理由の1つである、その話に……あまりにもそっくりだ。

 流石に原因が同じとまでは言わないが、鎧の剣士をどうにかすることでロックゴーレムの話が進展する可能性は、ゼロではないだろう。

 もっとも、全く関係ない可能性だってある。その辺りは捕まえてみないと分からないだろうが……。


「どの道、鎧の剣士が視界から消える事が出来るなら、こっちから探すのは現実的じゃありません」

「……そうですな」

「でも、恐らくそれは万能ってわけじゃない」


 いつでもどこでも姿を消せるならば、鎧の剣士は姿を消したままキコリを斬りにきていたはずだ。

 しかし、そうではなかった。

 鎧の剣士はキコリの前で姿を消さずに戦っていた。それはつまり……。


「戦う時……いや、たぶん一定以上の激しい動きをする時は姿を消せない。そういう条件だと思うんです」

「素晴らしい見解だと思います。しかし……それが人であるならば、飲まず食わずでいられるとも思えません。防衛伯閣下に話を通しましょう。そのような装備を隠し持つ者がいないか捜査を進言しましょう」

「ありがとうございます」

「いえ。実際にそういう装備が実在するならば対策が必要です。防衛都市として、やらねばならぬ当然のことです」


 確かに……キコリの「ブレイク」と同じで、暗殺に利用できる危険性の高いモノだろう。

 姿を消せる装備など、悪用すれば重要な場所に忍び込むことだって充分に出来る。

 しかも、あんな強力な力を持った装備を持ち込んだまま……だ。それがどれほど危険かなど、考えるまでもない。

 そして、これはジオフェルドには言えない……言えないが。

 キコリはこうも思うのだ。

 もし、あれの中身が獣人であったとして。「そういう理由」でキコリを殺しに来たとして。

 それは、とてもではないが……野放しになど出来ない。

 たとえばアレがイルヘイルを出てニールゲンに行くことを、キコリは許容できない。

 だからこそ、あの装備は壊す。この町にいる間に……何が何でも、だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る