じゃあ、話し合いをしようか
翌日。キコリはオルフェと共に冒険者ギルドへと来ていた。
今日の分のクエストと、前回の報酬を受け取る為だが……金貨の詰まった袋と共に渡されたのは黒鉄のペンダントだった。
「前回のクエストの結果を考慮し、黒鉄級に認定されました。お受け取りください」
「ええ、どうも」
こちらを伺うかのような態度が垣間見えるのは、ジオフェルドやギザラム防衛伯の影がキコリの裏でチラついているからなのだろう。
そこまでやって尚、ニールゲンのイレーヌの方が上だと思えてしまう。
まあ、考えれば考えるだけ気が滅入るので考えないようにしているのだが……。
とにかく、また魔石回収の依頼を受けてキコリとオルフェは冒険者ギルドを出ていく。
そこかしこから聞こえてくる囁き声や舌打ちが、このイルヘイルへの元々ない愛着を減らしていくが……キコリ個人でどうにかなるものでもない。
普人が活躍すれば疎まれ、普人が燻っていれば蔑まれる。
そういう場所なのだということは充分に理解できている。
……まあ、キコリはドラゴンなのだが。
「相変わらずムカつくわね」
「もう諦めたよ」
そういうものだと思ってしまえば、キコリには何のダメージもない。
これも一種の適応なのかもしれないとキコリは思うのだが……オルフェの視線が妙に痛い。
「な、なんだよオルフェ」
「別に? それよりさっさと行きましょ」
「ああ」
水と保存食を買い、英雄門を潜ってその先へ。
ソイルゴーレムを倒しながら向かう先は……帰らずの海だ。
穏やかに波が寄せては返す砂浜にキコリは立ち、海の向こうを見る。
当然、見通す事など出来ないが……なんとなく、心が落ち着くような気がする。
「結局、此処には何がいるのかしらね」
「さあな……まあ、きっと俺じゃ敵わないようなのがいるんだとは思うけどな」
たとえばクラーケンがいたとして、今のキコリに倒す自信はない。
無茶して倒して先に進んだとして、そこが更なる地獄の可能性だってあるのだ。
それを考えれば、今この先に進もうなどとは思えない。
なら、何故此処に来たのか?
「なあ、お前はどう思う?」
オルフェではない「誰か」に話しかけるキコリ。
そこには……あの鎧の剣士の姿がある。
「何故分かった?」
「砂浜って、足跡つきやすいんだよな。どんなに姿隠しても足跡が消えないなら……なあ?」
なるほど、確かに砂浜には鎧の剣士の足跡が刻まれている。
全身鎧のような重たい相手であれば、それを隠す事など不可能だろう。
「じゃあ、話し合いをしようか。俺はキコリ。お前は?」
キコリの手に、斧が出現する。
「貴様の死骸に教えてやろう」
鎧の剣士が、剣を構える。
それは……2度目の戦いの、合図だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます