お前に殺されかけた奴だよ

 キコリの斧が振るわれ、鎧の剣士の剣が輝きキコリの斧をバターか何かのように切り裂いて。

 しかしもう1本のキコリの斧が鎧の剣士の腰を強打する。

 そう、強打だ。やはり切れてはいないが……勢いで鎧の剣士は吹っ飛び、波打ち際に転がっていく。


「……やっぱり硬いな。それに剣も強い。でも、お前自身はそんなに強くない」

「殺されかけておいて戯言を」

「お前の装備が強いだけだろ。でもな、そういう理不尽さは、今の俺もちょっと得意なんだ」


 切り飛ばされたはずのキコリの斧が、まるで切断部から生えるように修復される。

 新品同然になった斧を振るうキコリに、鎧の剣士も静かに剣を構え直す。

 互いにじりじりと距離を測りながら、鎧の剣士はキコリへと語り掛ける。


「何故足を踏み入れた」

「仕事と……義理だ。その言い様……やっぱり中身は獣人ってことでいいのか?」

「貴様には関係のないこと」

「そうかよ!」


 仕掛けたキコリの斧を輝く盾が防ぎ、更なる一撃をも盾が防ぐ。

 完全にはじき返されている。その事実にキコリは思わず舌打ちをするが……同時に見逃してはいなかった。

 今の攻防の中で、鎧の剣士が剣を手放していたことを。

 そしてそれによって「何」が起こるかを。


「キコリ!」


 オルフェの叫び声が響いて。キコリは自分を貫こうとしている剣を掴むべく、斧を手放し手を伸ばす。

 前回キコリの鎧を貫いた剣にそんなことをすればどうなるかは自明の理。

 だからこそ、鎧の剣士は「愚か」と哂って。


「ソードブレイカー」


 魔力を籠めたキコリの手が、飛翔する剣に触れて。

 流し込まれた破壊のイメージと魔力が、剣を粉々に砕いた。


「なっ……!?」

「悪いけどさ。単純な魔力の出力勝負でなら、今の俺は簡単には負けないぞ」


 キコリは斧を振りかぶり、鎧の剣士へと襲い掛かって。

 当然鎧の剣士はそれを輝く盾で防ぐ。

 弾かれる斧。けれど、その盾にキコリの手が触れて。


「ブレイク」


 盾が、砕けて壊れる。

 持ち手だけが残った盾を鎧の剣士は見て。


「なん、だ。お前は……なんなんだ、お前は!」

「お前に殺されかけた奴だよ」


 キコリの手が、鎧の剣士の胸元に触れる。


「ブレイク!」


 鎧が、砕ける。砕けて、壊れ落ちて……何もない中身が、露わになる。

 兜やグリーブといった、残された部位が砂浜に転がって。


「……空。喋るリビングメイルが正解だった、ってことか……?」


 中身が突然消えて失せたというのでなければ、そういう結論になるだろう。

 残された兜は、もう何も喋ることはない。

 ブレイクで鎧が壊されたことで「死んだ」のだろうか?


「勝ったわね、キコリ」

「ああ。まあ、謎ばっかり残ったけどな」


 結局コレがキコリを狙った理由はなんだったのか。

 分からないまま……キコリはスッキリしない気分で兜を手の中で遊ばせていた。

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