お気づきでしたか

 そうしてキコリ達が一通りの話し合いを終えてベルを鳴らすと、そのベルからは音がしなかった。

 まあ、何かのマジックアイテムなのだろうが……やがて廊下を何かが走ってくる音が聞こえて、ジオフェルドが顔を出す。


「おお、キコリ様! 心配しましたよ!」

「ジオフェルドさん。すみません、忙しいでしょうに」

「何を仰いますか。報告は受けております……随分やっかいな相手と戦ったようで」

「はい。凄い装備でした」

「!」


 凄い相手ではなく、凄い装備。その意味するところを感じ取り、ジオフェルドは笑う。


「ハハッ、なるほど。どうやら私の出番はなさそうですね」

「もしダメそうだったら手を貸してください」

「ええ、勿論です」


 頷いて、ジオフェルドは顎に手をあてる。


「……しかし、話に聞いた限りでは鎧も武器も動作に何の問題もない完品でしたが」

「やっぱりおかしいんですか?」

「お気づきでしたか」

「まあ、包丁の魔石の位置がバラバラでしたから」


 そう、生きている包丁の魔石の位置はバラバラで、刃に魔石がついているものもあった。

 なのに、あの鎧の剣士の装備品にはそういう「おかしさ」はなかった。

 装備品として、とても綺麗だったのだ。


「ならば話は早い。これはとても……とてもおかしな話です。それが生きている町で手に入れた武装であるならば、機能に問題のない品を部位も全て揃え、剣も盾も性能が高く魔石の位置に問題がないものを手に入れている。これを可能とするのは、相当な時間、あるいは運です。ですが……」

「時間に関しては、ない。まだダンジョン化から日が浅い」

「その通りです。まともに考えれば、物凄く運の良い人物ということになりますが……そんな者の噂は聞いていません」


 そう、そんな人物がいれば噂になっているはずだ。

 凄い装備を手に入れたラッキーマン。噂にならないはずがない。

 だが、噂になっていない。ならば、そんな人物はいないか……今まで秘匿していたということだ。


「喋るリビングアイテムについてはどうでしょう」

「少なくともそういった事例はありません。たとえばリビングメイル自体は有名なモンスターですが、それと会話したという事例は英雄譚を紐解いても存在しません」


 ならばこの可能性についてもリビングメイルではない、あるいは新たにそういうものが出てきた……ということになる。


「それと、この件にはもう1つ問題があります」

「それは……どのような?」

「あんな鎧の剣士を、俺達は転移門を潜る前に見ていないんです」

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