確信に近い予感
「手立て、か」
力押しでは、かなり無茶をしないと勝てない。
それはもう証明された。なら、どうするか。
あの鎧の剣士の防御を破る手立てなんて、本当にあるのだろうか?
結局のところ、あの鎧を突破しなければ中身には届かない。
だが鎧を壊すには……。
「……あっ」
「何よ」
「ある。あるぞ……鎧を壊す手立て」
そう、それはキコリ自身の手の中にあった。
禁呪指定『破壊魔法ブレイク』。
武器破壊魔法ソードブレイカーにヒントを得て作った、唯一のキコリ自身の魔法。
禁呪指定されたこと、ミョルニルを覚えたこともあって使っていなかったが……アレなら、鎧自体にダメージを与えて壊す事が出来る。
「冒険者を始めた頃の俺が使えた魔法なんだ。今なら、もっと強力になってるはずだ」
「ふーん、どんな魔法?」
「相手に魔力と『破壊のイメージ』を送り込んでぶっ壊す魔法」
「え、怖っ」
「……俺もそう思う」
だが、鎧を真正面から馬鹿正直に壊すよりは随分と勝算がある。
「とはいえ、あの剣士がまた襲って来ればの話なんだが……」
「来るでしょ。絶対来るわよ」
「だよな」
わざわざキコリを狙って殺しに来たのだ。
また殺しに来ない理由がない。
いや、そうではない。「殺しに来るかもしれないから」ではない。
相手がもう殺しに来ないだろうという油断は、自分自身を殺す。
だからこそ「次会った時にどう対処するか」は想定しておかなければならない。
「ほんっと、なんていうか……此処来てからロクなことないわね」
「まあな」
それは否定する必要すらない。正直に言って、この町に何の愛着もわかない。
旅立つ理由があれば、いつでも何の記憶にも残らず出て行けるだろう。
それでも、この町に残るのは。
「ま、義理だよな」
「誰への?」
「誰っていうか……防衛都市ニールゲンへの、かな」
あの町がキコリを受け入れてくれたからこそ、キコリは冒険者になった。
まあ、その後ドラゴンになるとは思わなかったが……それ含めて、今のキコリを作ったのはあの町だ。
そしてそのニールゲンのセイムズ防衛伯から、この防衛都市イルヘイルの問題を解決し友好の懸け橋になってほしいと頼まれている。
その義理は、果たさなければならないのだ。
「此処を早く出て行こうと思うなら、ロックゴーレムの問題を早く解決しなくちゃいけない」
「この町の人間がゴミだからできませんでした、でいいと思うけど?」
「俺は嫌だな。何も出来ませんでしたってスゴスゴ帰るような真似は……あんまり、したくない」
「えー?」
「オルフェだって嫌だろ?『人間に邪魔されて何も出来なかった』なんて結果は」
キコリがそう言うと、オルフェは考えるような表情になって……やがて、キコリの眉間をビシッと突く。
「その通りだけど。ったく……で? いつアレぶっ殺しに行くの?」
「え? あ、いや。次会った時には対処するぞ?」
「何言ってんのよ。殺しに来た相手を殺せる手段があって、殺しに行かない理由があるの?」
「いや、別にアレを殺すのが目的ってわけじゃ」
「殺すのよ。遺恨を放置してもストレス溜まるだけでしょーが」
据わった目をしているオルフェを見て、キコリは「ストレス溜まる程に自分を心配してくれているんだな」と少し嬉しくなるが……同時に、あの鎧の剣士のことを思う。
(あの剣も問題だ。勝手に動いて俺を殺しに来た。なら、次に確実に勝つ為には……)
次の探索で会うという保証はない。
だが、必ずまたぶつかり合う。
そんな確信に近い予感だけは、キコリにはあった。
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