この世界ではない何処かから
アイアースの視界に映るものが、切り替わる。あの忌々しい神の世界から、この忌々しい祈りの間へと。
キコリはまだ祈っている……いや、時間の経過が分からない。実は一瞬の間の出来事でした、などということも充分に有り得るとアイアースは知っている。
だからこそアイアースはキコリの肩を軽く叩く。
「おい、キコリ」
「ん? なんだ、アイアース」
「もう諦めろ。たぶん無駄だろ」
「無駄ってお前……」
「祈りに応えねえなら、神は不在なんだろうよ。居ない奴に祈っても会えるわけがない」
そう、キコリにわざわざ「お前は神から敬遠されている」などと言う必要はない。
幸いにも……そう、幸いにもこの世界に残された神にはキコリとアイアースを元の世界に戻す手段はない。
ならば、会わなかったのと同じだ。「会ったけどどうしようもなかったし、お前は神に嫌われてる」なんてことを正直に伝える方がどうかしている。
だから、全部「なかったこと」にするのが一番正しい。少なくともアイアースはそう判断していた。
「でもなあ……神が不在なら、いよいよ手段が無くなるぞ?」
「それはどうだろうな」
「……何か手段があるんだな」
「最終手段だがな。聞くか?」
「聞かせてくれ」
迷いもなく言い放つキコリに、アイアースは「おう」と頷く。しかし、なんとも素直なことか。たぶん妖精女王を……オルフェのことを考えているのだろうが、それを含めても好感が持てるとアイアースは思う。だからこそアイアースにしては本当に珍しく、最大限に気を遣った話し方をする。
「まずは、あのレルヴァとかいう連中についてだ」
「人類の敵だって話だよな」
「おう。しかし、その人類の敵は何処から湧いてきた? 突然現れたって訳でもねえだろう」
「……確かに」
言われてキコリは考える。確かに、そんなことは有り得ない。人類の敵などという存在がある日突然湧いて出るはずもない。となれば、何処かからやってきたのだ。しかし何処から?
デモンのように大地の記憶が生み出したというわけでもないだろう。人類を追い詰めるようなモノが過去にいたのであれば「記憶」などという存在に留まってはいないはず。
ならば、何処から。そこまで考えて、キコリは魔王の姿を思い浮かべる。
「ああ、そうか。この世界ではない何処かからやってきたんだ。なら、レルヴァの正体は……」
そう、この世界ではない何処かからやってきた人類の敵。
高い戦闘力と、その攻撃性と。諸々を考えれば……その正体はあまりにも明白だった。
「破壊神。この世界にも破壊神がやってきていた……ってことか?」
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