屍王のトルケイシャ

「そうか、ここまで違うのか。ドラゴンとは……究極生物とは……」

「何を言ってる!? お前、シャルシャーンと何が……いや、此処で『何』をしてるんだ!」

「知りたいか? 知りたいか! なら教えてやろう! すぐにでもな!」


 その言葉が終わるより前にオルフェがグングニルを放つ。だがグングニルはネクロマンサーに命中しなかった。

 いや、正確にはネクロマンサーの周囲で沸き上がる禍々しい色のオーラのようなものに阻まれ溶けるように消えてしまった。


「魔力が可視化……!? キコリ、アイツ何かヤバいことしようとしてるわよ!」

「分かってる! ミョルニル!」


 キコリの両手の斧に、電撃が宿って……投擲する、その瞬間。大地が、弾け飛んだ。

 避けられるはずもない。飛べようと、意味はない。空気が猛毒のような何かで満たされ、臓腑を侵したからだ。

 

「カ、ハッ……」


 猛毒の空に投げ出され、キコリはそれでも態勢を立て直そうとする。

 オルフェは、ドドは。必死で視線を巡らせれば、ドドは苦しみで喉を抑えながらもまだ生きている。

 オルフェは……キコリに向かって手を伸ばしている。何かを叫んでいる。聞こえない。

 そして、目の前には死者の塔が出来ていた。様々なモンスターの死骸を組み合わせ溶かし練り上げたような、醜悪さが極まった腐れた肉塊の塔。

 いや、違う。それは、変化して……肉も溶け落ち、その中から「何か」が組み上がる。

 させない。

 何かをする前にこの場で殺してやると、キコリは斧を振り被って。

 凄まじい速度で飛来したそれが、キコリの腕を鎧ごと食いちぎった。


「がっ……!」

「ハハハ、これがドラゴンの血肉か! ああ、完成する! 我が身体、これにて完成せり!」


 バキバキと凄まじい音をたてて変形していくソレは、まるで……そう、まるで骨で出来たドラゴンのようだ。


「妖精が言っていたな!? 全てにケンカを売っていると! そうだ、そうだとも! 私はそんなことは承知の上で禁断魔法に手を出したのだ! 全てはこの為! 見よこの姿、この力!」

 

 骨のドラゴンとなったネクロマンサーは、歓喜の声をあげる。

 凄まじい歪んだ空気の嵐に翻弄されながら、キコリは骨のドラゴンの声を聞いていた。


「私は今こそこう名乗ろう! 私こそはドラゴンの域に到りしモノ! 死を穢し束ね、城を築きし屍の王! 私は……!」


 屍王のトルケイシャ。


 その咆哮と共に空間が大爆発を起こし……キコリは死を目の前にする。

 瞬間、キコリは見た。何もないはずのその場所に「居る」……何かを。

 その「何か」の目は確かにキコリを捉えて。

 キコリの意識は、遠のいていった。

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