見つけた

 崩落した区画。その場所の存在を知るべくレルヴァたちはリンクしていくが、どうにもそれらしき場所に近づいているドワーフがいない。

 分離して探すのもいいが、そうしろという命令は受けていない。ならば余計な疑念を抱かせないことが最善だ。

 レルヴァたちはそう判断すると、そのまま採掘のドワーフたちの影に潜み情報を収集していく。

 結果として、幾つかの情報が明らかになった。

 1つ目、黒鉄山脈の何処かに古代王国跡、あるいはその遺産がある。

 2つ目、どうにもそれは「願い」が叶うものであるらしく、王がその存在を信じている。

 3つ目、余所者にこの話を知られないようにしている。

 キコリの「見学」を阻んだのもこれが理由だろう。徹底して余所者を入れないようにしているのだ。

 言ってみれば、話が外に漏れるのを嫌がっている。此処にはドワーフたちしか居ないから話題に出ているのかもしれないが……外では口をつぐむのだろう。


(どうする?)

(主はアサトとかいう人間の情報をお望みだ)

(これでは任務を果たしたとは言えない)

(いや、任務は黒鉄山脈の内部情報の調査だ)

(崩落した区画の近くに誰かが行かないものか)


 そんな思考をレルヴァ間で共有していると、ドワーフのうちの1人が他のドワーフと移動を始め「おっ」と声をあげる。


「そういえばこの辺じゃないか? 崩落したのって」

「そうだな。まだ工事しないのか」

「やるって話だけどなあ。まあ、こんなもんは上の方々の指示通りにやりゃあいいんだ」

「違いない」


 言いながらドワーフは少し薄暗いその場所を覗く。坑道が完全に岩や土で崩れて埋まっており、如何にも先に進めないといった雰囲気が漂っている。

 そして同時に、レルヴァは感じた。そのレルヴァの感じたものを、他のレルヴァたちもリンクで感じていた。


(魔法だ)

(強い魔法の残滓を感じる)

(誰かがこれをやったのだ)

(誰だ)

(アサトだ)

(見つけた)


 見つけた。アサトの痕跡を見つけた。リンクした全てのレルヴァが同じ結論に至る。

 これをやったのは恐らくアサトだ。ならば、アサトはこの先に行き、この先に来ようとする者を妨害しようとしたに違いない。

 ならば、この先にアサトがいる。レルヴァたちはこの時点で、最優先探索対象を「この先」に設定した。

 素早くドワーフの影から抜け出すと、レルヴァは崩落した坑道の「その先」へ向かう。

 物理的な障害など魔力生命体のレルヴァには何の意味もない。通常の生命体では不可能な移動方法で土砂の壁を抜け、その先へと移動していく。そこから先は暗い坑道を魔法の明かりが照らしているが……そこで、レルヴァは停止する。

 何か……強大な魔力の気配を感じたのだ。この先に進むのは、自己判断では不能。

 だからこそ、この場の座標を記録して。全てのレルヴァは、キコリの下へと戻っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る