ちょっと見てなさいよ

 妖精たちが何かを話し合い始めると、もうキコリのことは見えていないようだったが……少なくとも、それが出来上がるまではこの妖精の集落を動けないだろう。

 やがて、魔法を使っているのか土が盛り上がったり何かがグニョグニョ蠢いているのが見えたが……妖精の1人が「見ちゃダメー」と土の壁を作ってしまう。

 どうやら、近づかない方が良さそうだ。

 ならばと改めて周囲を見回すと、ツリーハウスらしいものがあちこちにあるのが見える。

 大きさは様々だが、オルフェの家のようにキコリでも入れそうなものが結構多い。

 それは先程オルフェが言ったように大きいことに価値を感じているからなのだろう。


「なあ、オルフェ」

「何よ」

「迷宮化が起こってから、此処では何か異常とかあったのか?」

「あったわよ。当然でしょ?」


 オルフェは相変わらずキコリの頭の上に乗ったままだが……明らかにそうと分かる溜息をつく。


「今まで分かってたルートが全部変わったんだもの。迂闊に出かけられなくなっちゃったわ」

「やっぱりそうなのか」

「そうよ。おかげでゴブリンどもは迷い込んでくるし、この前はコボルトどもも来たし」

「あ、コボルトは俺も戦ったぞ。オルフェたちに会う前、そこから来たんだ」

「へー、それでかあ……」


 オルフェはしばらく考えるように無言。そして、少しの時間がたった後キコリの眼前に飛んでくる。


「いや、ちょっと待って。アンタみたいなザコが2つも3つも今の『境界』を超えてくるとは思えないし。まさか人間の街から相当近くなってんの?」

「2つ目だな」

「うーわ、最悪! てことはこれから人間どもがゾロゾロ来るかもしれないんじゃん!」

「まあ、そうなるよな……」

「今更どっかに移住? でもなあ……」


 本気で悩む様子を見せるオルフェだが、やがて「人間、殺すか……」と物騒なことを呟き始める。


「いやいや、待ってくれよ。そこはほら、形だけでも敵対しない方向とか……」

「出来ると思うー? ちょっと見てなさいよ」


 そう言うとオルフェは、何やら飛んできた妖精を手招きする。


「ねーねー、アレ何やってんの?」

「そんなことどうでもいいわよ。あのさー、人間が此処にゾロゾロ来たらどうする?」

「ぶっ殺すけど?」

「ありがと、行っていいわよ」


 土壁の向こうに飛んでいく妖精を見送ると、オルフェは「ね?」とキコリに振り返る。


「言っとくけど話し合いとか無駄だから。たまたまあたしと仲良く出来てるからって勘違いした?」

「あ、俺とオルフェは仲良しってことでいいんだな。ありがとう」


 キコリがそう言うと、オルフェは固まり……やがてキコリにいろんな角度から蹴りを入れ始める。


「いてっ!? いててっ! なんだよ!?」

「うっさいバーカ! 揚げ足とってんじゃないわよ!」

「ええ!?」


 全く理解できないが、オルフェが落ち着くまで蹴られているしかキコリに選択肢はなかった。

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