俺の存在はたぶん
ふと、キコリは背後のベッドでイビキをかきながら寝ているアイアースに視線を向ける。
2階建てのこの家は2階がベッドルームになっているが、大柄なドドが一部屋。そして恐るべきことにキコリはオルフェとアイアースと同じ部屋であった。体格的にそうするのが自然とはいえ、キコリも木石ではない。
多少は緊張したのだが……腹を出してイビキをかいているアイアースを見れば、そのうち「どうでもいいか」という気分にもなる。なおオルフェは小さいままふよふよ飛んで寝ているので何も思いようがない。
「色んなドラゴンに会ったけど……アイアースが一番平和な性格してるよな」
「まあね。他のドラゴン評だとアイツが一番最悪だったんだけど」
爆炎のヴォルカニオン。近付くものを全て焼き尽くす、キコリが最初に出会ったドラゴン。
守護のユグトレイル。世界樹とも呼ばれる、巨大な樹木のドラゴン。
不在のシャルシャーン。何処にでもいて何処にもいない、世界最初のドラゴン。
創土のドンドリウス。最も不死に近いと自称する、土の性質を持つドラゴン。
海嘯のアイアース。巨大なクラゲのような姿が正体の、今そこでイビキをかいているドラゴン。
どのドラゴンも最強生物やら究極生物と呼ばれるに相応しい化け物揃いだった。
「これで5人のドラゴンと会ったわけだ」
「会ってみて、どうだった?」
オルフェの問いかけに、キコリは考え込むような様子を見せる。そう、これはそういう旅だった。
自分がどう生きていけばいいのか。それを探すためにドラゴンに会う、この旅。
実際に会ってみて、振り返ってみれば……キコリは、思わず苦笑してしまう。
「そうだな……皆、自由だったよ。自分を曲げる奴なんて何処にもいなくて、それがドラゴンらしさなんだろうなとは思ったな」
「そうでしょうね。で? どうするの?」
「俺はドラゴンだ。だから、人間社会には居るべきじゃない。オルフェ1人であれだけ混乱が起こったんだ。俺の存在はたぶん、人間社会をひっくり返す」
ただでさえ同じ人間同士でも種族が違えば仲が悪いのだ。そこに「人と仲の良い、人からドラゴンになった者」などの存在が知れ渡ればどうなるか……キコリとしては考えたくもない。
「此処で暮らしてみようと思う。ああ、そうだ。妖精村の皆も此処に……いや、呼んでも来ない……か?」
「連続殺ゴブリン事件とか起こしたいの? あたしはそんな面倒事嫌よ」
「あー……そんなにゴブリン嫌いなのか?」
「人間の次くらいには」
「人間の次かあ……」
それはどうしようもなさそうだ。キコリは思わず遠い目になってしまう。
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