嫌な予感
この街にはゴブリンがたくさんいるのだ。ハイスケルトン相手なら吊るされるだけで済んでいるが、妖精相手では脅し文句でも何でもなくこんがり焼かれてしまう。
「まあ、無理にこっちに連れてくる必要も今のところないか……」
「そういうことね」
ならば、それについてはとりあえずいいだろう。あとキコリが急いでしなければならないことは……とりあえずは、ない。
ドンドリウスの言っていた破壊神ゼルベクトの復活の予兆については気にならないでもないが、生まれ変わりだというキコリにその気がないのに何かが起こるはずもない。
「もう会うドラゴンもいないしな……」
つまり……これ以上旅をする理由は、キコリには。そう考えそうになった矢先、「会ったことなさそうなのならいるぞ」と背後から声が聞こえてくる。
「え?」
「何よアイアース。他のドラゴン知ってるの?」
「おう、知ってる。俺様も1回会っただけだがな。ふわぁー……」
眠そうに欠伸をすると、アイアースは「えーと」と思い出すような仕草を見せる。
「ああ、そうだ。グラウザードだ」
「グラウザード?」
「おう。『裂空のグラウザード』って名前でな。文字通り空を裂く力を持ってやがる。確か『世界の外に行ける』とか言ってやがったな……何処行けば会えるか、一番わかんねー奴だな」
世界の外。つまり異世界ということなのかもしれないが……そうなると確かに会うのは難しい。
というよりも、キコリから会いに行ける手段が一切ない。
「それは……会いに行くのが不可能だろ。シャルシャーンに頼んでも会えるか分かんないぞそれ」
「だから言ったろ? 『会ったことなさそう」ってよ」
「そっか、ありがとな」
「おう」
アイアースはベッドに転がり直すと、何かに気付いたようにピクリと反応して起き上がる。
その視線はキコリたちのいる窓の外、空の向こうへと向けられている。
「オイオイ、マジかよ……どういうタイミングだ?」
「え? アイアース、その反応、まさか……」
「キコリ! 空!」
オルフェが声を上げ視線を向けた、その先。そこに映ったものを見てキコリはギョッと驚きの表情を浮かべる。
「な、んだアレ……」
空の色が、七色に変化して。白銀の巨大な何かがそこに映っていた。
そう、そこに居るというよりは、何処かにいるソレが空に映像として映っているかのようだ。
そして実際そこには居ないのだろう。その白銀の何かは通り過ぎていき……七色も霧散するように消えていく。
その白銀の何かが完全に消えたその直後、空の色も元に戻ったが……フレインの街の中が大きくザワつき始めたのは仕方のないことだろう。
キコリたち自身、アイアースを除いて今の光景が理解できなかったのだから。
「グラウザード……戻ってきやがったのか? だが妙だな。なぁんか嫌な予感がするぜ……」
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