なんだ、貴様等は

 行こう、と。

 キコリがそう言って歩き出すと、オルフェがキコリの横に飛んでくる。


「あたしには?」

「え?」

「あたしには何かないの?」

「何かって……え。欲しいモノがあったりするのか?」

「ほー? ま、別にいいけどぉ?」

「ええ……?」


 何か機嫌を損ねてしまったらしいオルフェにキコリは疑問符を浮かべる。

 今の対応の何が拙かったのか、全く分からないのだ。

 とはいえ、オルフェが機嫌を損ねたままというのは非常にマズイ。

 だからキコリは必至で脳を動かし、オルフェへと語り掛ける。


「オルフェ」

「何よ」

「今度、一緒に買い物行こう。オルフェに似合いそうな何かがあるかもしれない」

 

 あるかどうかは不明だが、そう言ってみると……オルフェがキコリをチラリと見てくる。


「……ま、それで手ェ打つわ」

「あ、ああ」

「で? どっち行くのよ。真っすぐ?」

「そのつもりだ」


 迷っては意味がない。まずは真っすぐ進んでいくのが順当であろうとキコリは考えていた。

 そうして何度かの戦闘を越え、進んでいくと……やがて、夜が訪れる。

 夜になってもなお止まない雪は、普通であれば体力を奪うのだろう。

 それを防いでいるキコリのドラゴンクラウンは、そういう意味では凄まじい能力ではある。

 とはいえ、こんな場所で夜営をするつもりもない。

 歩いて、歩いて。そうすると夜が明ける頃にはようやく次の転移門へと到着する。


「行こう、オルフェ」

「いいの? 心の準備とかしなくても」

「此処よりはマシだろうさ」

「どうかなー」


 そんな軽口を叩きあいながら転移門を潜った先は……荒野だった。

 何もない荒野……いや、違う。

 此処には巨大な火山がある。もうもうと煙を噴き上げる火山は、しかし。この中にあっては、ちっとも目立ってはいなかった。

 逃げるゴブリンの群れ。もうそれしか考えられないとばかりに無様に逃げるゴブリンを追うのは、炎。

 ジュオッ、と。それらを無慈悲に焼き尽くし溶かし尽くしたのは、追いついた炎。

 大地全てを焼くかのようなソレが通り過ぎた跡には、そこにあった全てが溶けた惨状しか残ってはいない。

 そして、それをやったのは。


「……なんだ、貴様等は」

「ひっ!」

「うあっ……」


 オルフェが、そしてキコリが。真っ青になって声をあげる。

 恐ろしい。

 そんな言葉しか浮かばなかった。

 アリアの家にも「そういうのを倒す本」はあったが……それがおとぎ話に過ぎないと思い知らされるような、そんな圧倒的な存在感。

 いるだけで周囲が燃え上がりそうな、強い魔力を纏った身体。

 太い手足と、雄大なる翼。

 何もかもを砕きそうな牙。

 そう、それは。それこそが。


「ドラ、ゴン……!」


 ありとあらゆる環境に適応するドラゴンクラウンを持ちし者。

 全てを貫く武器と全てを防ぐ防具を合わせ持ちし者。

 最強の代名詞。

 おとぎ話の中でしか殺された経験を持たぬ者。

 ドラゴン。そう呼ばれる生物が、そこには居たのだ。

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