貴様の運命だ

 動けない。

 全身から流れる汗を止められない。

 死ぬ。此処で死ぬと。それ以外の思考が浮かばない。

 勇気? そんなもの、自筆の死刑執行書に過ぎない。

 知恵? 役に立つというなら立ててみろ。

 幸運? それで覆せるような差ではない。

 勝てない。違う。生き残れない。

 キコリの中にある全てをフル稼働させたとして、生き残るイメージが見つからない。

 だから、戦おうと思ってはいけない。

 そんな態度を見せた瞬間、ドラゴンはこちらを潰しにかかる。

 うざったい虫を潰す程度の気軽さで、だ。


「……脅えているのか。だが、正しい」


 キコリとオルフェをじっと見ると、ドラゴンは突然目を見開き面白そうに笑いだす。


「ハ、ハハ……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ‼」

 

 それは、どういう笑いなのだろうか。

 大地を揺るがすほどの大声で笑ったドラゴンは、キコリに向かってその頭をもたげる。


「なるほど? 面白い。人のようで人で無し。人ではないようで、やはり人だ。だが……ハハハ、お前からは同族の気配もする!」

「俺、は……」

「おお、なんだ。『俺は』、なんだ? 言ってみろ」


 促されて尚、口がカラカラに乾くような感覚をキコリは味わう。

 目の前のドラゴンが「お話」をしているのが気まぐれに過ぎないと分かっているからだ。


「俺は、ドラゴンクラウンがある……らしい」

「ほう、ドラゴンクラウン。誰の命名か知らぬが、良いセンスだ。何を意味するものか良く分かる」


 ドラゴンはそう言うと、牙を剥きだしにして笑う。


「だが、随分と不完全だ。ガラクタを拾って冠と称するが如き代物だ」

「そうだろうと思う。俺自身、なんでこんなものがあるのか分からない」

「ほう?」

「オルフェは……妖精は俺がズレたんだろうって言ってたけど」

「なるほどな? ところで小僧」

「え?」

「もう適応したようだな?」


 言われて、ハッとする。目の前のドラゴンと会話できている。

 オルフェはキコリの背に隠れて未だ震えているというのに、キコリの汗は止まっている。

 あらゆる環境に適応するというドラゴンクラウン。

 それは「この環境」にもキコリを適応させたというのだろうか?


「ハハハハッ! 面白い、実に面白い! ズレるにしても、我等の側にズレる者が居ようとは!」

「あの……」

「なんだ」

「いいの、か? 人間如きが、とか言われると思ってたんだが」

「ハハハ、くだらん!」


 ドラゴンはそう言うと、キコリをジロジロと見回す。


「それを……ドラゴンクラウンを得たは、貴様の運命だ。どう転がるかを見る方が、余興としては上等だろう」

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