この平穏が何事もなく続けばいいのに
ならば考えるだけ無駄だ、とアイアースは思う。元々アイアースはあまり頭の良いほうではない。ずっと頭の良い竜神やシャルシャーンの考えていることなど看破できるはずもない。
そして恐らくは、ドンドリウスの様子がおかしいのも承知の上でキコリが来るからと放置していた。
勝つか負けるか、そこまで予測していたとは思えないが……アイアースがいるからと放置した可能性はある。
(……くだらねえ話だ。破壊神がなんだってんだ。過去にも倒したもんに何をそんなにビビってやがる)
そこで思考を打ち切り、アイアースは再度ベッドに転がる。
過去に倒されたことがあるなら、またどうにかなる。当時の大物は未だ健在なのだから。
その時点でアイアースは命の危険など微塵も感じはしない。ただの些事だ。
だから、アイアースはベッドの端に座ったキコリに振り向く。
「んだよ。俺様の話は終わったぞ」
「俺は終わってない」
「あ?」
「ありがとう。今まで会ったドラゴンの中でも、アイアースは凄い信頼してる」
「おう……1番か?」
「いや、1番はヴォルカニオンだ」
「お前のその頑ななヴォルカニオン推し、理解できねえんだけど。聞いた話じゃ何もしてねえだろ」
「まだ俺がドラゴンじゃなかった頃から良くしてくれたからな……」
「いいけどよぉ。そういやアイツもダンジョン化が進んだからどっか飛ばされてんじゃねえか?」
だろうな、とキコリもアイアースに頷く。実際、空間の歪みの「外」にある妖精村はそのままだろうが、それ以外は大きく変わっているはずだ。当然、ヴォルカニオンの居たエリアも何処かに移動しているだろう。
「此処から近ければいいのにな」
「いや、ダメだろ……ドンドリウスより話にならねえぞアイツ……」
「最初の印象が良いまま会ってないから、評価が上がり続けてるみたいなのよね……」
「乙女かよ。会えない間に想いを高めてんじゃねえよ」
「事情が事情だから人間関係うっすいのよね……ほら、生まれたての鳥とかいるでしょ。アレよアレ」
「おーい、聞こえてるぞ」
ヒソヒソと囁き合うアイアースとオルフェにキコリは思わずそうツッコミを入れるが、人間関係が希薄だったのは否定しようがない。
この街でようやくそれらしきものを築き始めてはいるが……あるいは違う道を歩んでいればもっと違う何かがあった……のかもしれない。まあ、今更ではあるのだが。
少なくとも今は、キコリはありのままの自分で生きていけるこの街が好きなのだから。
だから……この平穏が何事もなく続けばいいのに、と窓の下の通りを台車を引きながら通っていくゴブリンを見ながら考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます