怪しげな噂

 結論から言うと、キコリのその願いは叶わなかった。

 グラウザードの帰還より数日後、フレインの街に怪しげな噂が流れ始めたのだ。

 それは何処かからゴブリンが持ち帰り広まっていき、やがてオーガやスケルトンまで「その噂」をし始めていた。


「なあ、あの噂……」

「実際見たっていうけどなあ……」


 キコリが依頼をこなした帰りにそんな噂話の現場に遭遇したのは、それから更に数日後。

 オーガとスケルトンがコソコソと話しているのが丁度耳に入り立ち止まる。


「どうしたんだ? 2人とも」


 丁度知っている2人であったためにキコリはそう声をかけるが、2人はなんだかバツの悪そうな顔で「よ、よう」と返してくる。まるで悪いことをしていた現場を見つかったかのような態度で、キコリは思わず疑問符を浮かべてしまう。


「なんだよ。エッチな店に行く相談か? それなら聞かなかったことにするけど」

「違ぇよバカ」

「骨が何処のエッチな店に行くってんだ。ちょっと言ってみろ参考にするから」

「いや、そういう店の知識は入れないようにしてる」

「なんでだよ」

「看板をチラッと見ただけで殺されそうな目で見られたから……」

「オルフェちゃん、怖ぇよな……」

「妖精とか全然知らないんだけど、皆あーなの?」


 そんな一通りのアホな会話をすると空気も弛緩して、オーガが「んー……」と声をあげる。


「まあ、話を戻すとだな。此処とは別の集まりが出来てるらしいんだよ」

「別のって。まあ、そういうこともあるだろうな」


 人間の国だって幾つもあるのだ。モンスターの街が幾つかあったところでキコリは不思議には思わない。思わないのだが……どうにも、そういう話ではないようだ。


「なんかなー、『軍』を名乗ってるらしいんだよ」

「軍ってアレだろ? 人間が作ってる戦闘集団。そんなもん名乗るのはこう、穏やかじゃないだろ?」

「あー……まあな」


 実際、この世界における「軍」とは戦闘集団のことを指す。

 主に王侯貴族を中心とする権威ある戦闘集団が騎士団。

 そして騎士団を上位存在として定義し平民の兵士などを組み込み規模を巨大化させたものを軍と呼ぶ。

 いってみればそれなりの規模を持ち大きな作戦に運用するものを軍と呼ぶのであり、そんなものを名乗るというのは確かに穏やかな話ではない。


「軍ってことは……国を作るつもりだってことか」

「かもなあ。けどよ、此処があるってのにそういうの作るってのは……」

「しかもどうも、そいつらのスカウトが最近、この辺りをウロウロしてるらしいんだよな」

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