いつも感謝してる
聞きたくはないけど聞かざるを得ないだろうな……などとキコリが考えていた、その翌日。
神殿に行く途中の広場で、キコリは吟遊詩人が歌っているのを見た。
リュートの旋律が流れる中、歌うのは……何やら妙な歌詞だった。
「少年の勇気に妖精が応えし時、輝ける武器が目を覚ます。おお邪悪なる飛竜よ、その輝きを見よ! 妖精武器(フェアリオス)の尊き光は邪悪を天より撃ち落とす……」
もしかしてアレが「少年と妖精の物語」なのだろうか?
キコリは聞いていて、微妙な気持ちになってしまう。
途中からではあるが、すでに何か色々と違っている。
ただまあ、グレートワイバーンを撃ち落としたのは事実ではある。その際に派手に光が出たのも事実だ。
妖精武器(フェアリオス)とやらは……まあ、妖精の造った武器を持ってたのは事実だ。
なんだかんだあって、それはもう持ってないが……持っていたのは事実だ。
それでも今、キコリの武器は「そういうこと」になっている。
「……妖精の造った武器のこと、そう呼ぶのか?」
「人間がどう呼んでるかとか知らないし。そもそも人間に何か造るわけないでしょ」
「まあ、そうだろうけど……」
しかしまあ、そういうことになっているらしい。
まあ、吟遊詩人が適当に名付けたのだろうが……まさか今の武器がキコリのドラゴンとしての爪や鱗にあたるものだと言えない以上、それに「のっかる」のが最適ではある。
妖精の造った武器だということにしておけば何をやっても「そういうものなのだろう」で済んで便利だからだ。
それにしても自分を歌っているらしい歌を聞かされるのは……どうにもくすぐったい。
そしてそれ以上に気になるのは、とある点だ。
「……オルフェのこと、随分誤解してるよな」
「なんであたしが勇気とやらに応えてやらなきゃいけないのよ。馬鹿じゃないの」
「あー、オルフェはそう言うよな」
「そうよ。大体アンタのは勇気じゃなくて無茶っていうのよ」
そんな事を言っている間に吟遊詩人の歌は終わり投げ銭をされているが……まあ、要は「勇気ある少年が妖精と出会い、凄い武器を貰ってワイバーンに勝利する話」ということで良さそうだ。
注意がこちらに向く前にキコリたちはその場を離れ……そのまま道を歩いていく。
どうやら背後の広場では二曲目が始まったらしいが、別に聞く気はない。
「つまり、今の騒ぎは妖精武器(フェアリオス)とやらを欲しい連中が起こしてる……ってことでいいのか?」
「知らないわよ。でもまあ、そういう奴もいるんじゃないの?」
「……面倒だな」
「何を今更。あたしはそういう面倒ごとに巻き込まれるの込みでアンタについてってあげてるんですけど?」
そう言われてしまえば、キコリとしては苦笑するしかない。
確かにその通りであって、そこには一片の誇張もないからだ。
「いつも感謝してる」
「もっとしなさい」
胸を張るオルフェに頷きながら、キコリは神殿への道を進んでいく。
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