なるほど、それでキコリですか
冒険者ギルドの中は、雑然としていた。壁には無数の紙が貼られ、奥にはずらりと並んだカウンター。
広い空間には老若男女、様々な連中が揃っている。
人間にエルフにドワーフ、獣人なんてのまでいる。
そのうちの1人がガンツと、ガンツに捕まっているキコリを見て「フハッ」と笑い声をあげる。
「ハハハ、見ろよ! ガンツがまた子供捕まえてんぞ!」
「面倒見いいなあ、おい!」
「流石は子守のガンツだぜ!」
その笑い声は……意外にも「うるせーよ馬鹿」と周囲に小突かれたり蹴られたりして収まるが、キコリは思わずガンツを見上げてしまう。
「他にも俺みたいなのを面倒見てる、んですね?」
「おう。ガキが死んだ跡ばっかり見る時期があってな。酒が不味くなっちまった。それで仕方なくってやつだ」
それでも、ガンツが良い人間なのには変わりないだろう。見なかったフリをするでもなく、行動できているのだから。
見上げるキコリの頭を乱暴にガシガシと撫でて下を向かせると「行くぞ」とガンツはキコリをカウンターまで連れていく。
そうすると、受付嬢だと思われる職員が「おはようございます」と笑顔で声をかけてくる。
「ガンツさん、今日はその子の?」
「あー、いつものとは違ぇよ。こいつは冒険者志望だ」
ガンツは苦い顔でそう言うと、受付嬢はガンツとキコリの顔を見比べ、再度キコリをじっと見つめてくる。
「もし貴方が冒険者を志望し木札を提出するのでしたら、私にはそれを受け取り登録する義務があります」
「はい」
「ガンツさんはこんな顔してますけど、冒険者ギルドが信頼する優良冒険者の1人です。もしガンツさんが貴方に何かの仕事を紹介してほしいと要請されたなら、私達は空いている仕事に貴方を捻じ込む用意もあります。どれも冒険者より非常にクリーンで安全です。収入だって安定します。それでも冒険者を志望しますか?」
「はい」
キコリは即答する。冒険者以外の仕事を出来る自信はキコリにはない。
また悪魔憑きと言われる未来が目に見えるようだったからだ。
トラウマじみた思い込みに近いが、そうなるだろうという予測がキコリに他の仕事を選ばせない。
「ま、見ての通りだ。何か抱えてる系だな。珍しい話でもねえが」
「……ですね。ではお名前を。武器はその背中の斧ですね? 拝見させてください」
「はい。名前はキコリです」
背中から斧をケースごと外してカウンターに置くと、受付嬢は「うーん」と唸る。
「使い込まれた斧ですが、血の跡はなし。薪でも切ってたのかな……なるほど、それでキコリですか」
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