未知の、その先へ

「ふーん」

「いや、ふーんて」

「それ以上何言えってのよ。さ、行くわよ」

「まあ、そうかもだけどさ……」


 ちょっと不満そうにキコリは歩きだすが、そんなキコリの近くを飛びながらオルフェは思う。


(あの魔法を人間の頃から使えた……? どういうこと? 転生とやらの影響? でも……)


 キコリの転生についての話を聞いた後から、オルフェはずっと考えている。

 あの転生ゴブリンのこと。天才やら英雄やらのこと。異界言語のこと。そしてキコリのこと。

 たぶん「異世界」とやらは本当に存在していて、キコリにそれに関する記憶があるというのは本当の話だろうとも思っている。思っている、けれども。


(異世界への転生……か。キコリ、アンタ本当に『転生者』なのかしらね?)


 キコリの「無茶」を散々フォローしてきたオルフェだからこそ、見えるものがある。

 ドラゴンブレスを放った時の「無茶」は、キコリの異世界に関する記憶を削った。

 その後、どうやら全ての異世界の記憶が消えるに至ったようだが……正直に言ってその記憶がどういうものだったかを検証しなかったのをオルフェは少し後悔している。

 そもそもの話……どうして消えたのが「異世界の記憶」だったのか?

 無茶をしたから代償としてソレが消えたのだと、オルフェはそう考えていた。

 しかし、もしかするとそれは勘違いではなかったのだろうか?

 そう思う事がある。まだ答えは出ない、出ないけれども。

 なんとなくだが、キコリはあの転生ゴブリンと何もかもが違い過ぎる気がするのだ。


(異界言語、か。読み解けるか試してみるべきかしらね)


 文字としては分からないが、全体を絵としてならオルフェは記憶している。

 他の妖精仲間の知恵も借りてみれば、何か分かるかもしれない。

 まあ、そんなことをせずともキコリが会ったという「神」に会えれば話は早いのだが、そう上手くはいかないだろう。


「オルフェ、どうした?」

「何よ」

「難しい顔してるからさ」

「……驚いた。そういうのに気付く繊細さとか、あったんだ」

「ひどくないか?」


 そうして、2人は暗い穴の中を進んでいく。

 此処がダンジョンとして変化した「何処か」である以上、地上を目指す事に意味があるのかどうかも分からない。

 どの程度深いのかも分からず、この道が何処に続いているのかも分からない。

 だが、それでも。


「シャアアアアア!」

「キコリ!」

「ああ!」


 ヴォルカニオンの言葉を信じて、ただ進んでいく。

 このアリの巣の、その先……未知の、その先へ。

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