ストゥムカイト

 海、というと……どうしても「海嘯のアイアース」のことを思い出す。

 そのドラゴンブレスまで見たというのに、未だ本人を見ていないドラゴン。

 しかし、この先の海に関しては非常に凪いでいる。アイアースはいない……そんな確信めいた気持ちをキコリは抱いていた。

 そして、この場所は……どうにも全体的に、塩っぽい。

 海の近くだからなのか、あるいは別の理由なのかは分からないが、空を舞うストゥムカイトくらいしか生き物が居ないのもそれに関係があるのではないかと思わざるを得ない。

 生えている草もどこか独特で、しかも土肌の見えている場所も多い。


「此処に住んでる奴は居ないんだな」

「そうね。まあ、上のアレが原因だろうけど」


 先程からキコリたちの様子を伺うように旋回しているストゥムカイトを見上げながら、オルフェが舌打ちする。

 先制攻撃してもいいのだが、そうなると間違いなく本格的な戦闘に発展する。

 ストゥムカイトは仲間の仇を討つタイプのモンスターなので、向こうから手を出してこないうちから攻撃するわけにもいかない。


「まあ、上に気をつけてればいいなら然程問題はないな」

「そうね」


 オルフェがそう頷いた直後、キコリの足元が崩れて巨大な蛇にも似た……けれど頭部のあるべき場所に巨大な口しかない、そんな恐ろしげな風貌のモンスターがキコリたちを喰らわんと飛び出してくる。


「う、おっ⁉」

「キコリ!」

「オルフェ、任せた!」


 キコリが斧をモンスターの大きく開いた口の中に投げ込むと同時、オルフェは瞬時に巨大化しキコリを抱えて飛び回避する。


「ギイイイイイイイイイ!」


 不満そうにモンスターは別の場所に穴を開けて潜っていくが……その「跡」が内部から土で覆い隠されていく。その様子からは、先程キコリが投げた斧のダメージはなさそうだ。


「効いてない、か……」


 そんな余裕はなかったが、ミョルニルを纏わせて投げれば違っただろうか、などとキコリは考える。だが、その考えも上空の奇声ですぐに中断させられてしまう。


「キエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!」

「ミョルニル!」


 キコリは瞬時に手の中に斧を生み出し、オルフェに抱えられたまま電撃を纏わせ投げる。

 着弾した斧はそのまま電撃でストゥムカイトを蹂躙し、離れた場所へと落下していく。


「キエエエエエエエエエエエ!」

「キイエエエエエエエエエエエエエ!」


 すると即座に仲間の敵討ちとばかりに周囲のストゥムカイトがキコリとオルフェに向かって襲い掛かる。


「ファイアアロー!」

「キイエエエ!」

「キイエ!」


 続けてオルフェの放つ無数の火の矢は……しかし、ストゥムカイトは素早く回避して空へと舞い上がっていく。

 そして地面から飛び出したのは……先程のモンスターだった。

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