でもこれ、貸しですから

 殺す。殺す。そんな意思で頭を満たす。

 こちらに来い。殺してやるからこっちに来い。

 ただそれだけで脳内を満たし……キコリは叫ぶ。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼」


 僅かに大気が震える。

 アリアのそれには未だ及ばないものの、裂帛の気合が森に響いて。

 やがて、森の中からゴブリンが3体飛び出て襲い掛かってくる。


「うっ……あああああああ!」


 叫び、キコリはゴブリンへと突進する。

 剣を持ったゴブリンに最優先で飛び掛かり、迷わず斧で頭を叩き割る。


「ギッ!」

「ギイイイイ!」


 ナイフ持ちのゴブリンが何かするその前に顔面に肘鉄を喰らわせ、丸盾でぶん殴って吹っ飛ばす。

 次の瞬間にはこん棒持ちのゴブリンに頭を殴られるが、丸盾で顔面を殴り返す。


「ぐっ……」

「ガブアッ……」

「ギイイイイイ!」

「うっ、ぐあっ!」


 ナイフ持ちのゴブリンが投げたナイフを反射的に丸盾で弾いたその瞬間、こん棒持ちのゴブリンにがら空きの腹を思いきり突かれる。

 刺されたわけではない。しかし激しい痛みが腹部を襲い、それでも斧を手放さない。

 気付けばこん棒持ちのゴブリンがこちらをけん制している間に、ナイフを投げたゴブリンがもう1体の死体から剣を剥いでいる。

 折角剣持ちから潰したのに、これでは意味がない。

 どうするか……互いにけん制しあいながら考えて。キコリは、思い出す。

 そう、ウォークライとは。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼」

「ギッ……」


 殺す、と。必殺の気合を籠めたウォークライがゴブリンを一瞬怯ませ、キコリの身体に熱を与える。

 それは、ほんの僅かな誤差。確かな実力の前では吹き消される程度の、そんなもの。

 けれど、キコリの斧の一撃はこん棒持ちのゴブリンを叩き割って。

 そのまま、こん棒を奪いゴブリンへと投げつける。


「ギ、ギイ!」


 当然のように剣で弾いたゴブリンの……そのガラ空きの顔面に、丸盾を叩きつける。

 何度も何度も叩きつけ……倒れたゴブリンに、拾い上げた剣でトドメを刺す。

 それで、終わり。


「……っふうー……」

「おつかれさまです」


 すっかり身体から力が抜けそうになるキコリに、アリアがそう声をかけてくる。


「ウォークライはそれなりにモノになってきたみたいですね。あとは責任をとれれば完璧ですかね」

「責任?」


 アリアの視線の先を追うと……そこには角兎の死骸が、3体分。


「……あっ」

「別にこのくらい手間じゃないからいいんですけどねー?」

「ご、ごめんなさい」

「いいんですよー。でもこれ、貸しですから」


 笑うアリアに……キコリは、恐縮することしかできなかった。

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