神殿は結構凄い所なんですよ
そうして吹っ飛ばしてゴブリンの巣をきれいさっぱり消し去ると、キコリたちは妖精に状況を伝えてから町に戻ることにした。
途中でやはりゴブリンに何度か出会ったが「あのゴブリン」には遭遇しない。
それがしこりのように残りながらも、キコリは町に……アリアの家に戻る。
もう夜が近かったせいかアリアは家に帰ってきていたが、今日のキコリの話を聞くと「うーん……」と難しい表情になる。
「確かにそれは変なゴブリンですね……」
「ですよね」
「そのゴブリンのものかもしれないっていうノート、見せて貰えます?」
「勿論です」
荷物袋から取り出したノートをアリアはじっと見るが……やがて首を傾げてしまう。
「読めませんね」
やっぱり、とキコリは思うが……アリアは「でも」と続ける。
「これ、少なくとも書いた人は『この文字』を当たり前のものとして認識しているみたいです」
「そう、なんですか?」
「なんでそんなの分かるのよ」
オルフェも少し興味を持ったらしく、ノートに改めて視線を巡らせるが……アリアは簡単ですよ、とノートを指で叩いてみせる。
「だって字、汚いですし」
「ええ……?」
「これを見る限り、殴り書きみたいな文字もありますし丁寧に書いたような文字もあります。どれがどういう意味なのかはサッパリ分からないですけど……共通する文字が幾つか出てきて、殴り書きでも丁寧書きでも変わらない。それってつまり、その文字が『そういうもの』であるっていう認識が染み付いてるってことなんです」
「ええっと……書いた奴にとってはその文字が普通ってこと、ですよね?」
「そういうことです。多少崩れたくらいなら読める程度には常識なんです。その形の文字に、それ以外の意味がない……つまり暗号ではなく間違いなく言語です。対応表さえあれば読み解ける程度には気楽に書けるものなんじゃないかと思いますよ」
聞かされて「なるほど」とキコリは思う。これをあのゴブリンが書いたとして、そのゴブリンは何処から「文字に関する知識」を持って来たのか?
まさか、自分で文字を作ったというわけでもないだろう。
「アリアさん。この文字に心当たりとかってありませんか?」
「いえ、ないですけど……うーん。神殿なら、何か分かるかもしれませんね」
神殿。ニールゲンの神殿には確か1度行ったきりだったが……何故神殿が出てくるのかキコリには分からない。
キコリがそう考えているのが分かったのだろう、アリアは「神殿は結構凄い所なんですよ?」と笑う。
「神殿は知識の集積地です。各地の風習やローカルな言語についても知識が当然あるでしょうから」
「つまり、このノートも」
「読み解けるかもしれませんね?」
もしそうなら、あのゴブリンが何を考えていたか分かるかもしれない。
それはあのゴブリンをどうにかする上で、大きな進展に繋がるかもしれなかった。
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