雨よ降れ

 そもそも魔法とは繊細なものであればあるほど扱うための才能が必要になる。

 それは魔法を構築する技術であり、制御する頭の良さでもある。

 魔力とイメージが必要というのは「強ければ強い程偉い」タイプの魔法だけなのだ。

 オルフェが人間の町の本を読んだ限り、この手法をよく教えているが……つまるところ「それで充分」という方針が見て取れる。マジックアイテムの類があるので細かい制御の必要な魔法を使う場面が少ないのだろう。ないわけではないだろうが、恐らくは一般大衆に出回っている程度の本では教えていないのだろうと感じられた。

 さておき、キコリはこの「教える必要がない」タイプだ。とはいえ、そんなことを順序だてて説明することに何の意味もない。だからオルフェは簡単に結論だけを口にする。


「どうにもならないわよ。アンタはバカなんだから高度な魔法は無理」

「うっ。でもどうにかはしないといけないだろ」

「そうよ。だからどうにかするわ。キコリ、魔石。出来るだけ大きいの」

「あ、ああ。どうするんだ?」


 キコリが荷物袋から出した魔石を奪うと、オルフェはキコリに「支えてなさいよ」と言うと大きくなって、羽を消しキコリの前に座る。

 そんなオルフェを、キコリは特に躊躇わずに腰に手を回し支える。


「……羽、何処にいってるんだ?」

「この大きさだと出し入れ自由なのよね。何処にいってるかは知らない」

「え、怖……」


 キコリの視線を背中に感じながらも、オルフェは魔石に魔力を籠め始める。

 元々魔石とは魔力が固形化したものなのだから、通常はそんな扱いはしない。

 しかし今のオルフェがやっているのは、その「通常ではない」扱いだ。

 妖精の……いや、妖精女王としての卓越した魔法能力を駆使し、オルフェは魔石の性質を変化させていた。

 時折砂漠から吸い上げられるように魔石の中に入っていく砂と共に、魔石はその形を変化させていき……それは最終的に1つの腕輪の形へと変化していく。


「ふう、出来た。ほら、着けなさい」

「え? アレがどうなってこうなったんだ?」

「どうもこうもないわよ。魔力が物質になるんなら、その形も変化させられる。ただそれだけの話よ。そこにちょっとその辺の砂も混ぜて……とにかく、それを使えば雨を降らせることが出来るってわけ」

「説明放棄しただろ」

「したわよ。ほら、弱めに魔力を籠めて適当に念じなさい」


 弱めに、というのがどの程度かは簡単だ。かつての自分程度だろう。

 キコリはそう判断し「雨よ降れ」と念じる。すると腕輪が輝き空の狭い範囲に暗雲が広がり始める。そして降り注いだのは……結構な豪雨であった。

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