水の魔法
無惨な町の残骸の横を通り抜けていけば、その惨状はこれ以上ないくらいによく分かった。
およそ破壊されていない箇所はなく、僅かなその残骸が残されているのみ。
キコリたちですら、一瞬目を疑ったほどだ。
廃墟……そう、廃墟という言葉では生温い。ほぼ残骸なのだ。
アイアースの大海嘯とはそれまでに凄まじいものなのか、あれほどのものが此処まで無惨に消え去ってしまうのかと思わざるを得ない。
「……ドンドリウスの力で都市を建設するって話だったけどさ」
「うん」
「どのみちそれじゃ無理だったんじゃないかって気がするよ」
「コレ見てるとそう思わざるを得ないわね」
そう、ドンドリウスが心血を注いだであろう町も城も無惨に破壊された。
それはフレインの町が備えている状況に対してもそうだろう。
恐らく「その時」になれば、堅固な壁や建物では守り切れないはずだ。
必要なのは防御の術ではなく、攻撃の術。だからこそドレイクを連れていくことで状況はそれなりに改善されるはずだ。勿論、それで充分だとは微塵も思わないのだが。
「まあ、それはそれとしてドンドリウスを完全に敵に回した気はするんだけどな」
「それはそうでしょ」
これだけやってドンドリウスと仲良くできると思うのなら、相当に平和ボケしている。
だからこそ、此処にドンドリウスが戻ってくる前に去らなければらないのだ。
そして幸いにも、転移門を抜けるまでドンドリウスの姿はない。
そうして砂漠のエリアになると砂に足を取られて僅かにドレイクたちの移動速度が下がるが、それは仕方のないことだ。だが、それ以上の問題が発生していた。
「ドラゴン。この環境は私たちには辛い。乾くのだ。どうにかならないか」
「砂漠だもんな……オルフェ、魔法で水って」
「どうにかは出来るけど、根本的対策にはならないわよ。あとあたしが魔力切れしたら実質回復役はゼロになるのよね」
「……だよな。とはいえ……」
すぐ死にかけるキコリとしては、そんなものは何でもないとは口が裂けても言えはしない。
しかし、水の問題はそれ自体が命の問題だ。それを我慢しろなどとは、やはりキコリに言えるはずもない。だから、キコリはオルフェに縋るように頼む。
「なあ、オルフェ。水の魔法を俺に教えてくれないか? そうすれば俺がどうにか出来るだろ?」
「どうにか、ねえ……」
確かに今のキコリなら魔力切れになどならない。ならないが……オルフェにはキコリがその魔法を上手く使えるとは微塵も思えなかった。というか、キコリは比較的雑な魔法しか使えないと確信していた。水の魔法なんか教えたらアイアースの大海嘯モドキになる未来しか、オルフェには見えなかったのだ。
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