ドラゴンであるということ
オルフェたちがそうしている間にも、キコリはトルケイシャを刻んでいく。
深く、速く、より致命的に。
それでも再生するトルケイシャは、なるほど確かに不死に近いのだろう。
「……認めるよトルケイシャ。お前は、俺が命をかけた程度じゃ倒せなかった」
「何を、くそっ! こんな、何故こんな……!」
「だから、命を捨てるつもりでお前を殺す」
「何故だ! なんなんだ! たかが妖精1匹だろう! 何故君みたいなのが立ち塞がる!」
「たかが、じゃないからだ」
キコリの振るう斧をトルケイシャは躱し、空へと舞い上がる。
強くなってもなお、キコリは自分を殺せていない。
しかし、しかしだ。このままでは殺される。そんな強い危機感がトルケイシャを突き動かしていた。
「殺す……私の全魔力をかけて、殺し尽くす……! 見よ、私のドラゴンブレスを……!」
トルケイシャが自分の口元に集中させた魔力が、可視化されるほどに濃くなり紫の光を放ち始める。
ドラゴンブレス。本物ではないにせよ、そう名付ける程に自信のある……そんな魔法なのだろう。
そして……偶然と言うべきか、キコリもまた同じ名前の技を放とうとしていた。
以前放ったものとは違う……けれど、本質的には同じもの。
キコリは眼前に魔力を集中させていき、やがてそれが可視化され放電し始める。
ドラゴンブレス。キコリが自分の扱える以上の魔力を溜め込み放つ、安全性など一切無視した一撃。
しかし、それは……そうであるだけに、トルケイシャの集めている魔力量を。
それでも、超えていない。キコリの身体の限界など遥か超えて尚、魔力量ではトルケイシャが上回っている。
だから、トルケイシャは勝利を確信する。ドラゴンブレスでドラゴンに勝つ。ならば、それこそが真のドラゴンの証であるように感じたのだ。
「ハ、ハハハハハ! 勝った! 勝ったぞ! 私は勝った! ドラゴンに!」
トルケイシャは紫の呪いに満ちた『ドラゴンブレス』を地上のキコリに向けて放つ。
そして地上のキコリは……天空のトルケイシャに向けて帯電するドラゴンブレスを放つ。
その『ドラゴンブレス』とドラゴンブレスはぶつかり合って、そして……キコリのドラゴンブレスが、偽りの『ドラゴンブレス』を引き裂いた。
「は?」
何故。そう思う暇すらなく、トルケイシャはキコリのドラゴンブレスに飲み込まれる。
そして、気付いた。キコリのドラゴンブレスの本質。それは……先程自分が受けた「ブレイク」と同じであると。
相手に破壊を押し付ける傲慢すぎるその魔法はドラゴンブレスとなって、魔力総量では上回っていたはずのトルケイシャのドラゴンブレスを局所的に破壊し崩壊させたのだ。
そして今、トルケイシャの身体もまた破壊され崩れていく。
(ただの魔法のぶつかり合いであれば私が勝っていた……なのに、これは……いや、これが……)
これが、ドラゴンであるということか。
その本質を理解しながら、トルケイシャはこの世から完全に消滅した。
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