上手く導いてあげてくれ
「素晴らしい」
その姿を見ながら、シャルシャーンは歌うように高らかに声をあげる。
「キコリ! 君の本質たるそのエゴは、自分か敵に死を迫るだろう! そうして積み上げた死の上に君は立ち、それでも君はその姿を捨てないのだろう! こうして自分の死を間近にして、それでもだ!」
キコリの鎧が消え去り、その手から滑り落ちた斧も消える。
そして……キコリの口から血が流れ、フラリと力なく倒れるその前に、瞬間移動でもしたかのようにシャルシャーンがキコリを支える。
「この不在のシャルシャーンが無銘たる君に授けよう。無数の死を積み上げ、自らも常に生と死の境にて彷徨うもの……すなわち君は『死王のキコリ』だ!」
キコリから流れ出る血が足元に広がる中で、シャルシャーンは満足げに笑い……オルフェが必死にその身体に触れヒールをかける。
「このっ、クソドラゴン! そんな名前つけてる場合じゃないでしょ!」
「妖精の君には分かるまい。これは大事なことなんだよ」
「知るか!」
「やれやれ」
シャルシャーンが指先から光を放つと、その光はキコリを包み、明らかに大丈夫だと分かる程にその身体を回復させる。
「言っただろう? 今日はボクがいると。この輝かしい日に後輩を死なせる気はないさ」
これはオマケだ、とシャルシャーンは倒れたままのドドも回復させる。
うう……と呻いているドドはなるほど、平気そうだ。だが、オルフェは人間サイズに巨大化するとシャルシャーンの腕からキコリを奪う。
「アンタ、どうも信用ならないのよ。大体、あのトルケイシャって奴もアンタが倒せたでしょ」
「勿論さ。でもそれじゃあ意味がない」
「意味って何よ」
「アレはキコリが倒す必要があったんだよ。ドラゴンとして生きるなら、相性の良い相手くらいは倒せないとね」
「死ねクソドラゴン」
「ハハハ!」
吐き捨てるオルフェに、シャルシャーンは楽しそうに笑う。いや、実際に楽しいのだ。
笑うように見せていることはあっても、本当に笑ったのは、シャルシャーンとしては久しぶりだった。
「なるほど? キコリも君を相当大切にしてたみたいだけど、君も相当……」
「死ね」
「嫌われちゃったね」
シャルシャーンは肩を竦めると「まあ、仕方ないか」と笑う。
「一応、教えておこう。今後はキコリも、もう少しドラゴンとしての力を使いやすくなるはずだ。とはいえ、それは……」
「んなこと教えられなくても知ってんのよ。こいつの身体はそれには耐えられない」
「ま、そういうことだね。上手く導いてあげてくれ」
そう言い残し消えていくシャルシャーンにオルフェがもう1度「死ね」と言い放てば、シャルシャーンは笑いながら消えていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます