その向かう先

 キコリは、目を覚ました。何か、後頭部に柔らかい感触。

 そして……自分を覗く、見慣れた顔。


「オルフェ」

「ええ、そうよ。おはよ、キコリ。ぶん殴っていいかしら」

「勘弁してくれ」


 人間サイズになったオルフェに膝枕されているのだと気付いて、キコリは少し顔を赤らめながらも苦笑する。流石に今このタイミングで殴られたくはない。


「何を仕込んでるのかと思えば、あんな無茶……いや、もう無茶っていうのもおかしいわね。無謀っていえばいいのかしら?」

「まあ、言いたいことは分かる」

「そう? いくら私でも死者は蘇生できないのよ。分かる?」

「ん、まあ」

「よくもまあ、命を捨てるとか……」

「あ、いや。つもり、だから。な?」


 顔をぺちぺちと叩いてくるオルフェに言い訳するようにキコリは言うが……まあ、正直オルフェに怒られるような無茶をした自覚はある。そして、そんなキコリに助けが現れた。


「キコリ、目覚めたか」

「あ、ああドド。良かった、無事だったんだな」

「うむ。だが、結果としてはほとんどドドは戦力にならなかったな」

「そんなことはないさ。俺はドドに感謝してる」


 キコリがそう言えば、ドドは苦笑する。納得いく答えではない、というのがよく分かる表情だ。

 まあ、実際ドドとしては「一撃喰らわせる」ことは出来ても、戦いの勝敗に役立ったかと聞かれれば納得いく結果ではなかったに違いない。

 だが……それは、仕方のないことでもあっただろう。トルケイシャは、強すぎた。

 最初の遭遇時に殺せなかった時点で、それはもう決まっていたのだろう。しかしそれでドドが納得いくかといえば……いくはずもない。


「キコリ。お前たちは……またあのような敵と戦うつもりなのか」

「んー……戦いたくはない、な」

「別に戦いたくてやってるわけじゃねーわよ」

「だろうな」


 ドドは笑うと、スッと真顔になる。先程目覚めてから、ずっと考えていたことを言おうとしていた。


「ドドは、お前たちについていくには力不足だ。とはいえ、もうドドの村には誰もいない。荷物になるのは分かっている。だが、他のオークの村が見つかるまで同行させてもらえないだろうか」

「いいぞ」


 実質上のパーティ離脱宣言。しかしそれでも、キコリは即座に頷く。キコリとしては、迷うようなことでもないからだ。


「い、いいのか? 都合の良いことを言っている自覚はあるが」

「だからって、ここでさよならってのも違うだろ?」

「かも、しれないが。いや、助かる。ありがとう」


 その場で頭を下げるドドに、キコリは笑って頷く。

 ドドの離脱前提ではあるが……キコリたちはそうして、次の場所へ向けて進んでいく。

 その向かう先に何があるのかは分からない。けれど、3人の足取りに迷いはなかった。

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