ソレは勝者の余裕でしかない

 その末路は、キコリはもう充分すぎる程に知っている。

 そこまでの魔力を吸収すれば、キコリは間違いなく死ぬだろう。

 今まで何度も死にかけてきたのだ。説明されるまでもない。


「……ん?」


 そこまで考えて、キコリの頭の中に疑問が浮かぶ。

 そう、魔力を過剰に吸収……チャージすれば死ぬ。なら、あの転生ゴブリンは?


「ようやく疑問に行きついたかな?」

「あの転生ゴブリンは魔石を食べて強力な怪物になりました。でも、よく考えればそれはおかしい。どうしてあのゴブリンは死ななかったんですか?」

「アレが転生者だからさ」

「え?」

「そもそもおかしいとは思わないかね。『転生者』だから天才? 『転生者』だから英雄? 多少異世界の知識があるからと、そう都合よくいくかね?」


 言われてキコリは考える。

 確かに知識があることと使いこなせることは別問題だ。

 キコリ自身、その「記憶」を上手く使えずに悪魔憑きと呼ばれていたのだ。


「アレ等は迷い子なのだよ。この世界には合わない魂を持ったまま此方に来てしまった。だからこそ其処に『空白』とでも呼ぶべきものが発生する」

「空白……そこに魔力が入ったから死なずに変異した?」

「簡単に言えばだがね。故に転生者とは、必ず身の丈に合わぬ巨大な魔力を持っている。そして、それ自体は罪ではない。故に基本的には放置されるというわけだ」


 つまり、あの転生ゴブリンのやっていたことは神々の基準で罪に該当するのだろう。

 しかし、どういう基準なのかはキコリにはさっぱり分からない。


「罪、とは?」

「簡単だよ。取り返しのつかない事態を引き起こそうとしている場合だ。あの転生ゴブリンの場合は……まあ、説明せずとも分かるだろう? いずれアレは世界を喰らうモノになっていた」


 分かる。理解はできる。しかし……神の視点からも「そう」なのであれば、いっそ哀れだとキコリは思ってしまう。

 確かに相容れないし、それ故にキコリは殺した。

 だが、キコリは言ってみれば「それだけ」なのだ。

 キコリは出来る限りの手段を持って転生ゴブリンを殺し、転生ゴブリンは出来る限りの手段を持って生きようとした。ただ、それだけなのだ。


「何を考えているかは分かるがね。ソレは勝者の余裕でしかない。事実、もう1度アレに会ったらどうする?」

「殺します」

「そういうことだ」


 ファルケロスはニヤリと笑うと、キコリへと背を向ける。


「気をつけたまえ、キコリ。平穏も余裕も思い出も、生き残ってこそ持てるものだ」

 

 その言葉と同時に、キコリの視界が歪む。


「……まあ、あまり心配はしていないがね。君は……」


 その言葉を最後まで聞く事は無く。キコリの視界は、再び暗転した。

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