元気にやっているようで何よりだ

 キコリが目を開くと、見知らぬ場所に立っていた。

 何処かの海岸。何処であるかは分からない。

 何処かで見たような、そうでもないような。

 そんな場所にキコリは立っていた。

 砂浜に寄せては返す波。そこには何もないけれど。

 けれど、かつてそこには何かがあったような気がした。

 キコリがそれが何であったかを考えるその前に、背後に足音が響く。

 振り返ったその場所には……あの竜神ファルケロスを名乗った神が立っている。


「さて、こういう場合はどう言うべきか。『また会ったね』か『久しいね』か」

「竜神様……」

「うん……まあ、そうだな。やあ、キコリ。元気にやっているようで何よりだ」


 笑顔を浮かべるファルケロスだが……大神の笑顔と比べると、何処となく胡散臭さが漂っている。

 同じ笑顔のはずなのに何故そう思ってしまうのかまでは分からないのだが……。

 

「どうやら面白いモノと戦っていたようだね。あの類のが出るのはどのくらいぶりだろうか?」

「転生ゴブリンのこと……ですよね?」

「転生ゴブリンか、実に簡潔で分かりやすい。然り、アレは異世界転生者だ」

「俺と同じ……ってことですよね」

「ん?」


 そこでファルケロスは首を傾げ……やがて「あー、なるほど」と納得したように頷く。


「まあ、君の話はさておこう。あの転生ゴブリンだが、アレは排除するべきものでね。私が見張っていたんだが……まあ、手間を省いてくれて助かったよ」

「竜神様が、ですか?」

「引き継いだ案件だがね。ほら、近くにヴォルカニオンがいるだろう? いざとなったら焼き払ってもらうつもりだった」


 森が全部焼かれる光景を想像してキコリは「うっ」と声をあげてしまう。

 妖精が住んでるとかどうとか、ヴォルカニオンが配慮してくれるとは……あまり思えない。


「だがまあ、君がやってくれて本当に助かった。私は気にしないんだが、ヴォルカニオンに頼むと少しばかり被害範囲が大きくなるからね」

「えっと……光栄、です」

「ああ。それに『破壊魔法ブレイク』だったか。アレは良い魔法だ。実にドラゴンらしい」

「……真似されてたら俺が死んでました。魔法である以上誰かに真似される。そういう意味では危険だと思います」

「おかしなことを言う。君にブレイクをかけて効果を発揮できる奴がどれだけいると?」

「え?」


 思わず聞き返すキコリに、ファルケロスは大げさに肩をすくめてみせる。


「いいかいキコリ。君はドラゴンなんだ。世界の魔力をいつでも無制限に吸収できる君の魔力量は、つまるところ世界の魔力量と同じだ。君をあのブレイクで壊すのは……世界を壊すのと、然程変わりないんだ」


 もっとも、流石にそこまでの魔力を吸収した君がどうなるかまでは保証しないがね……と、ファルケロスは楽しそうに笑い始めた。

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