そんなに強くないだろ、俺は
地面に転がるキコリを、ツインヘッドヒュージゴブリンは見下ろして哂う。
「ギャハハハハハハハ」
「ヒィハハハハハハハ」
それに意味があるのか、それともないのか。
どちらにせよ「勝った」と思っているのは確実で。
ツインヘッドヒュージゴブリンはキコリにトドメを刺そうと動き出して。
「死ね」
オルフェが太陽と見紛うような大火球を、その頭上から撃ち下ろす。
フレイムスフィア。以前オルフェがイエティを焼いた魔法が、ツインヘッドヒュージゴブリンに命中する。
「ギッ、ギャアアアアアア!?」
「グングニル!」
輝ける槍を、オルフェは掲げて。ツインヘッドヒュージゴブリンの角から放たれる電撃が、四方八方へと放たれる。
投擲されたミョルニルは電撃に迎撃されて、爆発の余波でオルフェは声もなく投げ出され地面に落ちる。
「オル、フェ……逃げろって、言ったのに……」
キコリは倒れたまま、小さく呟く。
ああ、分かっていた。オルフェはキコリが逃げろと言ったくらいでは逃げやしないと。
分かっていた。分かっていたのだ。それでも、そう言うしかなくて。
「ああ、情けない……弱いな、俺は……」
ツインヘッドヒュージゴブリンが、キコリへと振り向く。
今度こそ殺してやろうと、そんな意思を籠めるかのように。
「「グングニル」」
輝く2つの槍。それを、キコリは見上げる。
「ミョルニル」
キコリの身体を、電撃が覆う。
キコリ自身を強化する、そのやり方で。動かない身体を無理矢理に動かしながらキコリは跳ぶ。
2つのグングニルが、地面を吹き飛ばして。キコリの蹴りが、ツインヘッドヒュージゴブリンを弾き飛ばす。そのまま電撃がツインヘッドヒュージゴブリンを襲い、汚い悲鳴をあげさせる。
「ミョルニル」
更に一撃。電撃。
「ミョルニル」
二撃目。電撃。
「ミョルニル」
三撃目。電撃。
「ギャ、ガアアアアアアアアアアアアアア!?」
「ミョルニル」
通算5度目の電撃を纏って、キコリは自分を嫌悪する。
「安全に戦おうだなんて……そんなに強くないだろ、俺は」
余裕のある戦い方が出来るようになったせいで、弱くなった。
安全とか安定なんて言葉を覚えてしまった。
弱いくせに、ザコのくせに。未だに守られているくせに。
何を、勘違いしてしまったのか。
思い出せ、原点を。
殺せ、殺せ、殺せ。殺意を高めろ、吼えろ、お前を殺すと世界に宣言しろ。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
ドラゴンロアが響いて、ツインヘッドヒュージゴブリンの動きが止まる。
「ブレイクッッッ!」
ミョルニルの電撃を纏ったキコリのブレイクが叩き込まれて。
外部から凄まじい量の魔力をチャージし放たれたブレイクはミョルニルの電撃と共にツインヘッドヒュージゴブリンの身体を微塵へと変えていく。
その身体は……今度こそ、一片の残骸すらもなく塵へと変わって。
着地したキコリは、ゆっくりと歩いて……倒れたままのオルフェを見つけ、笑いかける。
「……ごめんな。でも、勝ったから」
「それで喜ぶと思ってんならアンタ、救いようのないバカよ」
「分かってる。だから、ごめん」
キコリはその場に、倒れこんで。
「ほんと……ふざけんじゃないわよ、このバカ……ッ!」
そのまま、意識は暗転した。
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