それは常識だ

 頭部を砕かれて生きている生き物は居ない。

 それは常識だ。だからこそ、これで転生ゴブリンは死んだはずだ。

 ……本当に?

 死んでいたはずの転生ゴブリンは動き出した。

 なら、頭がなくなった程度ではまた動くのでは?

 そこまで一瞬のうちに考えたキコリの動きは、速かった。

 その手の内に斧を呼び出し、唐竹割りにするべく振り下ろして。

 ズドン、と。何かに撃ち抜かれるかのように吹き飛ばされた。


「ぐっ……!」

「キコリ! って、何アレ!? キモッ!」


 キコリに駆け寄ろうとしたオルフェは、頭部を失った転生ゴブリンの身体が急速に増殖し巨大化していくのを見ていた。

 それはホブゴブリン、いや、ビッグゴブリン……もっと大きい体躯へ。

 巨人としか言いようのない巨体は、森の木々をも超えて。

 そして、失われた頭部がボコリと音を立てて。2つの頭部が生えてくる。

 どちらもゴブリンそのものだが……異形以外の何者でもない。

 名付けるのであれば、ツインヘッドヒュージゴブリンといったところか。


「この……! キモいのよ、グングニル!」


 オルフェの放ったグングニルはしかし、ゴブリンの頭の1つが吐いた炎に阻まれ爆発する。

 ドゴン、と。凄まじい音と爆発にオルフェは悲鳴をあげる事も出来ずに吹き飛んで、地面に落ちる。


「う、嘘でしょ……どんな魔力濃度してんのよ、あの火……!」


 ゲラゲラと笑うツインヘッドヒュージゴブリンの額に、角が生えて。

 その2つの角から電撃が放たれ、無差別に地面を砕く。

 それだけではない。その2つの口が、何かを言っている。

 まさか、とオルフェは思う。


「「グ、ン……」」

「……ちょっと。冗談でしょ」

「「グングニル」」


 2つのグングニルが、投擲されて。

 キコリが立ち上がり、オルフェを抱えて跳ぶ。

 だが逃げ切れるものではない。オルフェを庇ったまま、キコリは吹き飛ばされて。


「が、はっ……」


 鎧を砕かれ、身体を2つのグングニルのエネルギーに焼かれキコリが血を吐く。

 

「ハ、ハハ……ゲホッ。グングニルを初見で真似されるのは……これで2度目か」

「そんなこと言ってる場合!? ヒール!」

「言ってる場合さ。離れててくれ、オルフェ」

「はあ!?」

「グングニルを真似してきたってことは、アイツ……たぶん」


 ツインヘッドヒュージゴブリンが、手近な木を引き抜く。

 それを、振りかぶって。


「ミョルニル」

「グングニル」

「早く離れろ!」


 叫ぶキコリからオルフェは飛び離れて。

 キコリは両手に斧を構え「ミョルニル!」と叫ぶ。

 投擲した斧が、投擲された木とぶつかって電撃を周囲にバラまいて。

 グングニルの衝撃が地面を砕き粉塵を巻き上げる。

 キコリはその中で斧を構えヒュージゴブリンに向かい走る。

 狙いは、足。だが、辿り着くその瞬間……ツインヘッドヒュージゴブリンの足が、当然のようにキコリを蹴り飛ばした。

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