さっき戻りました
防衛都市ニールゲン。その中は穏やかで、騒がしく。
しかしこうして見回すと、確かに普人が多めではある。
あるが……獣人やエルフ、ドワーフの姿もある。イルヘイルのようなギスギス感は、あまりない。
「どしたの、キコリ」
「いや。此処に帰ってきて、種族同士のギスギスした気配感じたら嫌だなって思ってたんだけどさ」
「あー……」
「でも、そんな雰囲気は微塵もない。安心したよ」
イルヘイルでは大多数であった獣人があからさまに普人を嫌っていたが……此処ではそんなことはない。ただそれだけのことが、キコリにはとてもホッとすることだった。
そんな2人の向かった場所は、冒険者ギルドだ。といっても仕事をするというわけではなく……その地下にこそ用事があった。
冒険者ギルドに入り、階段を降りて。売店のカウンターに近づくと……そこに居た人物が驚いたような表情で立ち上がる。
「キコリ! 帰って来たんですか⁉」
「はい、アリアさん。さっき戻りました」
アリアはカウンターを出てくると、キコリの前に立ち……その身体を、軽く抱きしめる。
「お帰りなさい、キコリ。無事でよかったです」
「アリアさんもお元気そうでよかったです」
「ふふ、私はいつも通りにしていただけですから」
パッと離れたアリアは、キコリの鎧や武器を確かめる。
「装備にも異常なし……つくづく凄い装備ですね。いつも新品みたいな状態を保持するなんて」
「はは……」
正確にはキコリの一部なので出す度に「新品」になってはいるのだが、そんな事を言えるはずもない。
「オルフェもお帰りなさい」
「はいはい」
オルフェのアリアへの扱いは相変わらず雑ではあるが、妖精としては「相手を尊重している」レベルのものではあるだろう。
「さて……話したいことは色々ありますけど、後でにしましょうか」
「はい。お仕事中にすみません」
「いいえ、いいんですよ。来てくれて嬉しいです」
ニコニコと上機嫌なアリアに頷いて、キコリたちは冒険者ギルドを出る。
まだ時間は昼手前。冒険に出るわけにもいかず、けれどアリアの家でゆったりとするには早すぎる。
「……オルフェ」
「何よ」
「食堂とかで飯を食ってみようと思うんだけど」
この町に来たばかりの頃はそんな余裕はなかったし、イルヘイルでは外で食べること自体が躊躇われた。
しかし、此処でなら何も心配はいらないし……財布に余裕は充分にある。
ちょっと贅沢してみるくらい、なんでもない。
だからこそ、キコリはそうオルフェに提案して。
「……え? 好きにすれば?」
なんでそんな一大決心みたいな顔してるのか分かんない。
そう言いたげなオルフェに……キコリはちょっとだけ落ち込んでしまうのだった。
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