お帰りキコリ
「ニールゲン……なんか久々な気がするな」
背中に立派な斧を背負った少年はその巨大な都市を見て、懐かしさすら感じながら呟いた。
無数の家、永遠に続くかのような大きな壁。
防衛都市と呼ばれる巨大な都市の姿は、少年に確かな感動をもたらしていた。
「まー、あっちを経験すれば此処も多少はマシに見えるわね」
少年の近くを飛んでいる妖精の少女が、どうでも良さそうにそう言って、少年は思わず苦笑する。
人間嫌いは相変わらずだが、これは妖精の種族的なものなので致し方ない。
元々人間と相容れない妖精が少年と一緒にいるのは、色々と複雑な事情によるものだ。
少年の名は、キコリ。
少女の名は、オルフェ。
獣王国の防衛都市イルヘイルからこの防衛都市ニールゲンへ、ようやく戻ってきたところだった。
そう、此処は防衛都市ニールゲン。
対モンスターの最前線であるニールゲンは、出身を問わない冒険心に溢れた者……すなわち冒険者を広く求めていた。
多少言動が変な程度では誰も気にしない。そういう場所だったのだ。
そしてキコリは今、このニールゲンに初めてきた時とは違う気持ちで巨大な門へと向かう。
「待った。そこで止まるんだ」
そして巨大な門の前で、キコリは衛兵に制止される。
「ドラゴンの意匠の装備……妖精を連れてる……ああ、君がキコリだな」
「はい。セイムズ防衛伯閣下からの仕事をこなして戻りました」
「君の都市への貢献に感謝を。防衛伯閣下への謁見申請をするかい?」
「お願いします」
「よし。では今用紙を持って来よう……おい、アレを頼む!」
衛兵が近くの詰め所へ声をかけると、その中にいた衛兵が紙と板……それと羽ペンを持ってくる。
それはどうやら謁見申請書であるようで、名前や連絡先となる宿を書く欄が用意されている。
「文字は書けるかい?」
「勉強してますので、なんとか……」
文字を覚えるのが重要である事は分かっている。
だからこそ勉強したのだし、書く方の勉強だってやっている。
キコリが何とか書き切ると、衛兵はそれを見て頷く。
「よし。ではキコリ、分かっているとは思うが、今日すぐに謁見とはいかない。明日以降となるだろうが……少なくとも日が落ちる頃には、この用紙に書いた場所にいるようにしてほしい」
「分かりました」
「もし居なかった場合は伝言を頼むことになるが、確実ではない。もし夜更けまでに謁見時間に関する情報を受け取れなかった場合は、衛兵詰所の本部に確認に来るように。いいね」
「はい、分かりました」
「よろしい。では……お帰りキコリ。君の更なる活躍を期待している」
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