待ってくれている人が、いますから
それから、数日が経過して。ロックゴーレムが出ない事を確認した上で「依頼完了」の判定が下されることになった。
生きている町の消滅、そして生きている町を形作っていたモンスター……という事になったのだが、ひとまず、そのモンスター討滅の功績も認められた。
稼ぎ場の消滅に冒険者たちはざわめいたようだが、すぐに「ならば何処で稼ぐか」と話し合い行動を開始している……らしい。
「まったく……今考えてもゾッとする。生きている町そのものがモンスターだったとはな」
ギザラム防衛伯はそう言って、軽く息を吐く。
防衛都市イルヘイルの入り口。
帰る為の準備を終えたキコリたちを見送る為に、ジオフェルドと共に来ていたのだ。
「あんな都合の良い場所があることを、儂を含め誰も疑問に思わなかった。ちょっと行ってみれば、すぐに違和感に気付いたはずなのにな」
「それについては私も同罪です。実際に行っていたのですから」
ギザラム防衛伯とジオフェルドが同時に溜息をつく。
「全くその通りじゃない」
「オルフェ」
「いや、いいのだ。反論など出来はせんよ」
「防衛伯閣下が動くわけにはいかないでしょう」
「それでもだ」
責任感の強い人なのだろう。しかし、そんな人とも……もうお別れだ。
それを思うと、キコリは少しだけ寂しい気がして、ギザラム防衛伯へと頭を下げる。
「色々と、お世話になりました」
「いや……それは儂の台詞だ。君が居なければ、イルヘイルはどうなっていたか分からん」
「防衛伯閣下の仰る通りです。あの町そのものなモンスターなど……許されるのならば、共に戦いたかったほどです」
「ハハハ、それは儂もだな! その場に居なかったのが残念でならん!」
「いやあ……命がけでしたし……」
いられても困る。
キコリとしては「居なくて良かった」が答えなのだが……そんなことを言う訳にもいかない。
「……キコリ、オルフェ。君たちに感謝しているのも、共に戦いたかったのも本当だ。この町を救う役目を、君たちだけにやらせてしまった」
「ありがとうございます、キコリ様、オルフェ様。このお礼に関しては、改めて正式なものを神殿からもお送り致します」
「イルヘイルからもだ。君の功績は、誇るべきものだ……この件を通して、獣人と普人の関係改善にも繋がるだろう」
「だと、いいんですが」
そう簡単にはいかないだろうとキコリは思う。
これだけ続いている根深い問題だ……もっともっと、長い時間がかかるだろう。
しかし、それでも。僅かに、世界が良くなる方向に進んだのなら。その手助けができたというのであれば。それは……とても良かった、とキコリは思う。
「本当にありがとう。感謝する」
「はい。お役に立ててよかったです」
「出来ればこの町にずっといて欲しい程だが……難しいのだろうな」
その誘いは、とても光栄なものであることは分かっている。
分かっているが、キコリに受けるという選択肢はない。
「待ってくれている人が、いますから」
「……そうか。では仕方ないな」
「はい、申し訳ありません」
「いや、構わんよ」
ギザラム防衛伯はそう言うと、ニッと笑う。
「では、達者でな。次に来るときは是非便りをくれ。歓迎の準備を整えておこう」
「ありがとうございます。では、俺達はこれで」
しっかりと頭を下げて、キコリとオルフェは防衛都市ニールゲンへの道を進んでいく。
その胸には……銀級冒険者の証のペンダントが、光っていた。
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