こういう場所なんだな

 そして、食堂に向かう道中……落ち込んだキコリの頭にはオルフェが乗っていた。


「もー、機嫌直しなさいよ」

「いや、俺が悪いんだ。俺が1人でテンション上がってただけだから」

「そりゃまあ、あたしが人間臭さの極みみたいな所……喜ぶと思う?」

「思わない」

「でしょ?」


 言われてみればまさにその通りなのだ。そういう意味ではキコリが悪い。

 それが分かっているからこそ、キコリは自分の中で気持ちを立て直している。

 とはいえ、オルフェに無理矢理突き合わせるのも悪いな……という気持ちもあるのだが、そこにオルフェがヒョイと顔を覗き込んでくる。


「あのさー。そもそも論で言えば、此処での生活に付き合ってる時点で今更だから」

「……そういうもんか?」

「そういうもんよ。あたし以外の妖精だったら、来た瞬間に魔法ドーンよ」

「かもな」

「かも、じゃなくてそうなの。寛大なあたしに感謝しなさい」

「ああ、感謝してる。いつもな」

「なら良し」


 そうして歩いて行けば、1つの食堂が見えてくる。

 冷えた酒樽亭、という身も蓋もない名前の食堂だが……どうやら人気であるらしく、人の出入りが多い。

 チラリと見ればオルフェが「うえっ」という顔をしているのが見えるが……。


「やっぱやめるか?」

「気にすんじゃないわよ。ほら、行きなさい」

「ん、ああ」


 そうして中に入ると、全員の視線がキコリ達に向く。


「妖精……」

「じゃあアレが……」


 何やらキコリとオルフェの話をしているらしいが……町を離れている間に有名人になってしまったらしい。

 とはいえ、イルヘイルに居た時のような敵対的な視線ではないから特に問題はないだろう……とキコリは思う。


「いらっしゃいませー! ご注文はランチでよろしいですか? お値段は500イエンになります!」


 すぐにやってきた女性店員に言われて、キコリは座った場所の机を見回すが……メニューの類は置いていない。


「あ、はい。それでお願いします」

「承りました! そちらの妖精さんは……」

「木の実。適当に盛ってきて」

「はい! では500イエン分でご用意します! 合計で1000イエン頂きます!」

「では、これで」


 キコリが店員の手に銀貨を載せると、店員は「少々お待ちください!」と店の奥へと向かっていく。


「……こういう場所なんだな」

「何よ。来たことないの?」

「来たばっかりの頃は貧乏だったし、その後は来る機会もなかったんだよなあ」


 イルヘイルでかなり稼げたというのもあるが、装備にもお金がかからず、オルフェのおかげでポーションも必要ない。

 なんとも有難い話ではあるが……考えれば考える程、オルフェに頭が上がらなくなりそうになる。

 命がどうのこうの以前に、オルフェに頼り過ぎている。


「オルフェ」

「何?」

「好きなもの、頼んでいいからな」

「え、ほんと何? 思考をすっ飛ばす前に説明しなさいよ」


 不審がられてしまったキコリだが……一から説明するとオルフェに「馬鹿じゃないの」と本気で馬鹿を見る目で言われてしまう。

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