あたしはこっちの方が

 そしてオルフェは今、机の上……キコリの前に座って見上げていた。


「あのさー……今更だから。ほんと、今更だから。突然変に気ィ使われると、こっちも困るのよね」

「ごめん」

「謝るんじゃないわよ。別に悪い事はしてないでしょ」

「まあ、そうかもだけどさ」

「でも気の遣い方は変だから。別に普段感謝してないとは思ってないから。いつも通りでいいのよ」

「……」


 黙ってしまったキコリにオルフェは同じく黙ってじっと睨み返す。

 そして、先に口を開いたのはキコリだった。


「やっぱりオルフェが居てくれてよかった」

「いや、だからさあ……」

「その上で、こういう機会にちゃんと形で感謝を示したいと思うんだ」


 キコリの真っすぐな視線を受けて、オルフェは何かを言おうとして……やがて、溜息と共に顔を逸らす。


「あー……もう。うん、そういうとこを評価してないでもないし。うん、気持ちは受け取っておくわ」

「ああ、ありがとう」

「ほんとにさあ……いや、いいんだけど。はあ……」


 オルフェが再度の溜息をついたあたりで「あのー……」と声がかかる。

 振り向けば、先程の店員が料理を持って立っていた。


「ランチとナッツ、お待たせしました」

「あ、すみません」

「いえいえ。こちらこそ、なんか良いものを見れまして……」

「見世物じゃないわよ」

「はい、すみません! それとコレはサービスの果実水です!」


 料理を置いてさっさと別の場所へ歩いていく店員だが……気付けばサッと視線を背ける客があちこちに居るのが見えた。

 どうにも、先程のを見られていたらしい。


「これだから人間ってのは……」

「まあまあ、食べよう」


 言いながらキコリはこれが逆だったらどうかと考えるが……妖精に殺されない前提なら、顔なんか背けずガン見だったのではないだろうか?

 まあ、これを言うとオルフェに怒られそうなので言わないが。


「何か言いたげね?」

「いや、別に。それより、食べようか」


 キコリの皿に乗っているのは、どうやらコロッケであるようで……それに丸パンと野菜クズのスープがついている。

 多少冷めているが、しっかりと衣のついた大きめのコロッケが2個。

 フォークで割ればマッシュしたポテトが詰め込まれていて、実に美味しそうだ。


「どれどれ?」

「あっ」


 オルフェがコロッケの断面に手を突っ込んでポテトを掘り出し、パクリと食べる。


「んー……ふーん?」

「気に入らない感じか?」

「いや、良く分かんない。あたしはこっちの方が好き」


 そう言うと、オルフェはナッツの皿から1つ掴み出す。

 キコリはちょっと心配になってコロッケをかじるが……普通にホクホクして美味しい。

 味覚や好みの問題かもしれないが……オルフェがパンに齧りついてみたりしていたのを除けば……概ね、平和な昼食であった。

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