キコリというのは
食事を済ませて、食堂を出て。なんとなく町中を歩いていると、やはり視線が突き刺さる。
どうにも道行く冒険者から見られているようなのだ。
「なんだってのかしらね」
やはり視線に気付いていたらしいオルフェが不愉快そうに言うが、キコリとしては許容できる視線だった。
物凄く興味をもたれている。たとえるなら、そんな感じだからだ。
その理由は……大体想像がつく。ワイバーンの件だろう。
死骸も放置してきてしまったから、何をやったかは大体知られているはずだ。
「まあ、気にしないでおこう。特に害意があるわけでもなさそうだし」
「害意がなくても害があるわよ」
「どんな?」
「あたしがイライラする」
「それは問題だな……」
とはいえ、キコリにどうにか出来るわけでもない。
なんとか我慢してくれとオルフェをなだめていると、キコリの目の前に男が立ち塞がる。
「キコリというのはお前か?」
「そういう貴方は誰ですか?」
20歳くらいだろうか、黒髪のその男はキコリをじっと見ていたが……やがてフン、と鼻を鳴らす。
見た目は冒険者そのものだ、随分と高そうなものを身に着けているのが分かる。
腰に帯びた剣も、何らかのマジックアイテムなのだろう。
「俺はアサト。此処には最近来たばかりでな……妖精を連れていると聞いたから、1度会ってみたかったんだ」
傲慢が染み出ている奴だ、とキコリは思う。
誰かを見下すような態度が、実に板についている。たぶん、そうやって生きてきたのだろう。
「そうですか。大変失礼ですが、どちらかの貴族の出でいらっしゃいますか?」
「俺は俺だ。それ以外の何でもねえよ」
冒険者の身分証は……つけている。どうやら金級冒険者であるようだが……。
「ま、もういいや。じゃあな」
そう言うとアサトはキコリの横を通り過ぎていく……その瞬間、キコリに軽く肩をぶつける。
「地球、日本」
そんな「訳の分からない」単語を呟いて。訳が分からず眉をひそめるキコリに、アサトは少しばかり驚いたような表情になる。
「えーと……チキュ……?」
「嘘だろ。絶対そうだと思ったんだが……いや、いい。忘れとけ」
手を振って去っていくアサトを見送って。その姿が見えなくなった辺りで、オルフェが「あー……黙ってないと殺すって言いそうだったわ」と息を吐きだす。
「珍しく何も言わないと思ったら……」
「あたしだってアンタの為に我慢するくらいの度量の広さはあんのよ」
「ああ、なんかこう……危なそうな奴だったしな」
「そう、それ。ていうか最後のアレ何よ。チキューンとかニフォンとか」
「いや、俺も聞き覚えがない」
そう、キコリには全く覚えがなかった。
けれど……もしかすると、だが。
(もしかして……前世関連の単語なのか……?)
すっかり思い出さなくなってきた記憶を探るが、やはり何も出てこない。
(ダメだ。前世の記憶自体が、あまり思い出せない……)
まるで、半端に削り取られたかのように連続性のない断片的な記憶の欠片たち。
それが自分の中で繋がらないことをキコリは不思議に思ったが……すぐに別に困ることでもないと片づけてしまった。
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