奇妙極まりない状況

 海の底は進めば進む程暗くなり、オルフェやフェイムの出した魔法の光の珠が唯一の光源になってくる。

 魔法の光の珠に照らされる範囲は充分だが、先程の魚モンスターたちのように襲ってくるものもたくさんいる。オルフェの水中活動用の魔法がなければ、どれだけ苦戦していたか分かったものではないだろう。

 だが、そうはならなかった。だからこそキコリたちには周囲を見回す余裕もあった。


「海の底っていうのも、こうして見ると面白いな」

「そう?」

「ああ。あの変な木なんか見てみろよ。地上にはあんなのないだろ」

「アレはサンゴっていう生き物だったはずよ」

「生き物? アレが……ああ、動いたな」


 海底から枝を伸ばす木のような巨大サンゴを見てキコリは感心したような声をあげるが、同時に警戒したように斧を握る。

 この場に生きているということは、アレもまたモンスターということだ。

 ならば、いつ襲ってきてもおかしくはない……が、微妙に動くだけのサンゴは、キコリたちに敵意を見せるわけでもない。

 ドドもメイスを握っていたが……その警戒の表情は、少しずつ緩んでいく。


「……襲ってこない、か」

「そうみたいだな」


 ただ揺れているだけだから、というのもあるのだろうか。あるいはその平和な姿に癒されでもしたのだろうか。妙に安心するような気持ちを覚え、キコリも自然と斧を握る手を緩めて。


「!?」


 キコリたちの足を、砂から飛び出たハサミが掴んでいた。


「なんだ!?」


 キコリの足を千切ろうというかのようにギリギリと力を籠めるハサミにキコリは斧を叩き込み、砕けたハサミの主が砂の中から現れ砕けたハサミでキコリを殴り飛ばす。


「ぐうっ!」

「キコリ! このっ、ロックランス!」


 オルフェの放った魔法が平べったい虫のようなモンスターを砕き、海底に縫い付ける。

 だが、同じような虫のモンスターが砂から次から次へと出てきて、それでもなお「安心できるような感覚」は身体から抜けない。

 戦闘時の緊張といったものが、一切湧いてこないのだ。

 これはおかしい。あまりにもおかしい。その理由が何処にあるかは、もうここまで来ればわぁり切っている。

 あのサンゴだ。あれが何かをやっているのだ。こちらの警戒心を解くような何かをやっているからこそ、今のこの奇妙極まりない状況がある。


「……! いつの間に!」


 キコリは自分の吹っ飛ばされた方向に「別のサンゴ」がいるのを見て、斧を振るう。

 いつの間に近づいてきていたのか。

 分からない。分からないが、どうやら此処はサンゴたちの狩場であるようだ……!

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