マーダーシャーク
「たぶんだけど、魔法で自分を強化してたのね。『ワイズ』なんてついてるだけはあるのかもしれないわね」
「あー、それでブレイクが通りにくくなってたってこと……か?」
キコリの「破壊魔法ブレイク」はブレイクに籠めた魔力と相手の魔力の差によって効きが変わってくる。
平たく言えば、キコリが自分の命と引き換えにするくらいの無茶をして魔力を注ぎ込んだブレイクであれば、大体のものは破壊できる。
だからこそ、キコリは自分の手を軽く握ったり開いたりしながら見つめる。
「……感覚的には、前のままなんだ。今なら、もう少し無茶しても」
「それ以上言ったらぶん殴るわよ」
「ごめん」
「よろしい」
許しながらもオルフェは「こいつはやるな」と確信する。ずっとそうだった。
キコリは必要と思えば躊躇わない。『自分の何か』を失うというリスクが『自分以外の何か』を失うかもしれないという可能性を前にいとも簡単に障害でなくなるのだ。
ありていに言えば、自分を大切にしていない。自分に価値を見出していない。
死にたがりなのではなく、死を回避するために命を簡単に賭金としてベットする。
生きる為に死に向かう。そういう「バーサーカーな生き様」が根底に根付いている。
「さ、行くわよ。時間与えれば向こうにまた準備されるでしょ」
「だな。急がないと」
そしてそれは、恐らく直らない。キコリの自意識よりも深い何処かに、刻まれているからだ。
キコリのそんな「大事な誰か」に分類されているのをオルフェは嬉しくも思うが、複雑でもある。
オルフェは別に、キコリの重荷になりたいわけではないのだから。
(……妖精女王、ね。アッサリ殺されたところを考えても然程強いモノじゃないのかもしれないけど)
それで自分が今より強い存在になれるのであれば、その立場と力を貰ってやってもいいと。オルフェはそう思う。
話を聞くに、どうにも他の候補が死ななければ「妖精女王」は決まらないのだ。
いきなり殺しに来たことを考えても「仲良く妖精女王は諦めましょう」とはならないだろう。
殺されるつもりはないのだから、そうなるしかない。
「正面。くるわよ」
「ああ」
海中を凄まじい速度でやってくるのはサメのようなモンスター。鋭い牙と背びれでボートも切り裂くというマーダーシャーク。
「ロックアロー」
放たれる数本の岩の矢がマーダーシャークに突き刺さり、キコリの斧が動きを止めたマーダーシャークの頭を叩き割る。
ゴポゴポと音をたてて海上へと浮き上がっていくマーダーシャークの死骸をストゥムカイトが狙っているのか、水面で何か慌ただしい音が聞こえてきたが……別に、どうでもいいことだ。
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