ワイズシザー

 砂浜から、海の中へ。

 かかっている魔法のせいか、服が濡れるどころか水の冷たさも感じはしない。

 輝くウォーターメイルで覆われた身体は陸上で歩くように……というには少し動きにくさを感じるが、ほぼ問題ない。

 キコリたちは海底へと問題なく歩いて降りていき、驚いたようにキコリは周囲を見回す。


「……すごいな」

「まあね。でもさっきも言ったけど、無茶すれば効果時間は短くなるわよ」


 オルフェに「ああ」と頷くと、キコリは周囲を注意深く見回す。海底を歩くのは楽しいが、モンスターが出てこないと楽観視するほど気を抜いてはいない。

 歩きながらも周囲を確認し、怪しいモノがないかを常に確認していく。

 出てきたら即座に戦えるように斧を出しているが、その斧も光が覆っている。

 油断は、一切ない。ないが……「うおっ!」という声が聞こえ、ドドが何かに咥えられてキコリの横を通り過ぎていく。


「ドド⁉」

「ぬう、ん!」


 ドドが自分を咥えていた巨大魚の口をメイスでこじ開け、海底へと転がり落ちる。

 反転して向かってくる巨大魚をメイスでぶん殴れば、巨大魚は海底に叩きつけられ、そのまま気絶したように海上へと浮き上がっていく。

 だが……ほぼ同時に、海底の砂の中から飛び出したハサミがキコリの足を掴んでいた。

 砂を水中に撒き散らし視界を塞ぎながら出てきたのは、巨大カニのモンスター。

 キコリを振り回し叩き付け、再度振り回し叩きつける。それが終われば、更にもう1度だ。


「カニのモンスター……!」

「ロックランス!」


 オルフェが即座に岩の槍を放つが、巨大カニは口から吐いた泡のようなものでオルフェの岩の槍を消し去ってしまう。


「魔法⁉ 嘘でしょ……!」

「ワイズシザーだ! 聞いたことがあるぞ。海の魔法使いにして恐るべき戦士! 自分の倍の大きさの敵を餌にするという!」

「つまり強いってことか!」


 フェイムにそう応えると、キコリはハサミに斧を叩きつける。

 すでに鎧にも斧にも魔力を流しているが、それでもワイズシザーの殻には僅かな傷しかつかない。

 鎧も先程からミシミシと音をたてていて、ワイズシザーの能力がとんでもなく高いことを思わせる。ドドの振るうメイスも然程のダメージを与えていないように見える。


(……だとしても硬すぎる。何かカラクリがある)


 しかし、それを探っているほど余裕があるわけでもない。キコリは斧を消すと、ワイズシザーのハサミに触れる。


「ブレイク!」


 チャージした魔力を遠慮なく叩き込んだブレイクはワイズシザーのハサミを砕き、ワイズシザーは凄まじい速度で逃げていく。


「……殺し切れなかったか。かなり魔力を叩き込んだんだけどな」

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