海底への冒険
そんなフェイムの心に気付くこともなく、オルフェは魔法を構築していく。
海とかいうものについては、もう充分に学習している。
底を歩けて、息が出来ればいい。ひとまずはそれでどうにかなる。
行動に阻害がなければ、更に良いのだが……。
(そこまでやると魔法が複雑になりすぎるかしら。いえ、条件面での妥協をすれば……)
「よし、出来たわ。名付けてウォーターメイルね」
まずはキコリに。バリアのそれに似た輝きがキコリの全身を覆い「おお……」と全員が感嘆の声をあげる。
「これは……凄いな」
「定期的にかけ直す必要はあるけど、ひとまず『呼吸できて』『海底を歩けて』『ある程度自由に行動できる』ようになってるわ。ただ、無茶すると効果時間は当然減るわよ」
ドドに、フェイムに、そうして自分にかけていくと……フェイムが意を決したように声をあげる。
「オルフェ。いや、オルフェ殿。私にもこの魔法を教えてくれないか」
「は? いや、理由は分かるけどなんで? そういうのめんどくさがる奴だと思ってたけど」
「うっ……その通りだ。しかし、私も役立たずではいられない。これでも妖精の端くれ、オルフェ殿が魔法をかけ直せない時の役にたてるだろう」
そんなフェイムの真意を探るかのように、オルフェは無言でじっと見て。やがて「いいわよ」と答える。
「い、いいのか⁉ 自分でもかなり図々しいとは思ったのだが」
「別に。今は仲間なんだし、魔法の共有くらいやるでしょ」
「礼を言う……!」
「いいわよ、そんなの。それよりしっかり覚えなさい」
オルフェがフェイムに教え始めたのをキコリとドドも聞いていたが……やがてドドがキコリにチラリと視線を向け囁く。
「……すまない。ドドはサッパリ分からん」
「安心してくれ。俺もイメージは出来るけど理論は分からん。ていうか魔法ってそういうのだっけ……?」
「そこの馬鹿2人。妖精の高度な魔法はアンタ等にはあってないから。その辺で大人しくしてなさい」
「「はい」」
オルフェに言われてキコリとドドは思わず敬語になってしまうが、その程度にはオルフェが凄いと改めて思わされる光景だった。
「いや、オルフェが凄いのは分かってたんだけどな」
「うむ?」
そう、ずっと分かっていた。キコリはオルフェに何度も救われているのだから。
そんなことは、分かってはいるのだ。ただ、それでも。
「俺が思ってるよりオルフェはずっと凄くて。いつもそれを思い知らされるんだ」
「ドドはキコリも凄いと思うが」
その言葉に、キコリは困ったように笑う。
「ありがとう。ドドも凄いぞ。ハイオーク、だっけ? そんな凄いのに進化したんだしな」
「まだ足りん。ドドはもっと強くなるぞ、キコリ。ドドもまた、お前の想像を超えてみせよう」
「ああ、期待してるよドド」
「ドドは期待に応える男だ」
そうやって拳を突き合わせるドドとキコリの手の上に、オルフェが舞い降りる。
「仲が良いのは結構だけど。伝授は終わったから、一端かけ直してから行くわよ」
「お、おう」
「うむ」
そうして、4人は海の中へと足を踏み出していく。
それは人生で初の……海底への冒険の始まりだった。
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